July 17, 2007

閻魔大王は忙しい

  
「ヨシくん」は4歳の男の子。
いつもお父ちゃんとお母ちゃんと一緒に、行儀よくお店に入ってくる。
オヤジに見せびらかすために、お気に入りのトミカを2台持ってくる。

いつもの席についた「ヨシくん」は、なぜか今夜は元気がない。
ご愛飲の「こどもびいる」を注文することも忘れて、お母ちゃんの胸に顔を押し付けて、何事かつぶやいている。
「えんま様、こないよね ? ぼくのところに、こないよね ? 」
ハハァン、15、16日と「赤門寺」で御開帳の閻魔堂で、赤ら顔で巨大な閻魔大王に
お目通りしたというわけか。
そして、
「ウソをつくとえんま様に、ベロを引っこ抜かれちゃうんだよ」
とかなんとか言い聞かされて、ギロッと睨む閻魔大王と目が合って、脅えてしまったんだ。
「大丈夫だよ。ヨシくんはいい子だから、ウソをつきませんって約束したよね。だからえんま様はこないよ」
「でも・・・・」
お父ちゃんとお母ちゃんが優しく諭しても、「ヨシくん」の不安は去らない。
今にもシクシク泣き出しそうだ。

嗚呼、懐かしいなぁ。
オヤジにもこんな純真な頃があったんだよねぇ。
でもウチの親はいかにも恐ろしげに、
「地獄の蓋が開いて、牛頭(ごず)・馬頭(めず)を連れた閻魔大王が現れて、お前みたいなウソばかりつく子供の舌をヤットコで引き抜くんだ」
と、顔を背けるオヤジの頭を無理矢理閻魔大王の方を向かせ、とっぷりと見せられた。
「ヨシくん」の両親のようにやさしく慰めてくれたら、こんな屈折したオヤジにならなかったかもしれない。
今さら、あとの祭りだ。

大好きな「こどもびーる」で乾杯しても、「ヨシくん」の気分は晴れない。
ではちょっと、助け舟をだそうか。
「ヨシくん。閻魔大王は今忙しいから、ヨシくんのところには行けないと思うよ」
キョトンとオヤジを見つめる「ヨシくん」。
「あのね、ニュースで毎日悪い人が捕まったりしてるだろ。今さ、世の中に悪い人がいっぱいいるから、閻魔大王はとっても忙しくって、子供のところにまで来てらんないだよ。だから、ヨシくんは閻魔大王には会えないのさ」
「ホント・・・ ? 」
「ホントだよ。このあいだ閻魔大王の家来に聞いたんだから」
ホッとしたように、「ヨシくん」ちょっと微笑む。
さあて、お好み焼食べましょうかね。

しばらくして、
「でも、えんま様はヨシくんのおうちの近くにいるでしょ・・・」
あら、まだ不安が解消されてないのね。
「さっきのお寺にいたのは、ホンモノの閻魔大王じゃないんだよ。あれはね、お留守番のお人形。だって、とにかく閻魔大王は忙しいんだから。今はねぇ、たぶんアメリカにいると思うよ、アメリカにも悪い人がいっぱいいるだろ。で、その次は北朝鮮行くって言ってたかな。当分日本には帰ってこないと思うよ。世界中に悪者がたくさんいるからサ」
「そっかぁ。わかった」
よい子だねぇ。
これで安心してお好み焼に専念できますな。

無事食べ終わった頃、だめ押しでアフターケア。
「ヨシくん。閻魔大王はサンタクロースとお友だちだから、悪い子がいるとすぐにサンタさんに連絡して、そういう子供のところにはプレゼントがこなくなっちゃうんだよ。だからずっといい子でいないとダメなんだよ」
「うん。わかった。ぼくいい子でいるよ」
「じゃ、そのトミカ1台オジさんにちょうだいよ」
「これはダメ」
即座に言われてしまった。
だが、これでよい子はさらによい子になるのだ。

そして、オヤジはまたまた嘘をつきまくってしまった。
あの世で何十回も舌を抜かれちまうんだ。
抜かれても抜かれても舌はすぐに生えてくるから、永劫に痛みと苦痛は続くのだ。
オヤジタンを焼いて、美味そうに喰らう牛頭・馬頭が笑う。
あああぁぁぁ〜〜〜〜〜、だれかクモの糸を投げてくださいませェェェェェェ。



10:15:00 | mogmas | | TrackBacks