December 16, 2005

陰暦11月15日ぜよ。

陰暦の11月15日、午前2時半。

真ん丸のお月さんが中天高く輝き、風はなく、空気は凛と冷えている。
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吐いた息が白く渦巻き、龍の形に、そして大きな男の影になる。

男の手には大振りな湯のみ茶碗が握られ、中には清冽に澄んだ美酒が満ちている。
月がそこへ映り込み、ますます酒が匂い立つようにそそられる。

土佐の超辛口の純米酒「船中八策」画像の表示

男は茶碗に口を近づけ、ぐびり、と喉を鳴らして胃の腑に流し込む。
熱い息を吐いて振り返ると、男は言った。
「おぼえちょってくれていたんじゃのう。うれしいぜよ、土竜のおんちゃん」
無愛想な顔をにっとほころばせ、男はもう一口酒を飲んだ。
「いい月じゃのう。わしゃあ、いい時に死んだのかもしれんのう・・・」
遠く、高速道路を走る車のクラクションが夜気の中を谺する。
男は目を細め、夜空の彼方に目をやり、そしてまた一口飲んだ。

やがて男は茶碗をぐいと差し出し、言った。
「もう行くぜよ。いつまでも突っ立ていると風邪をひいちまう。明日のある者は、眠るのも仕事のうちぜよ。ほんじゃ、おさらば・・・」
そういうと男は、ブーツの足をベランダの手すりに掛け、「よっこらしょ」とその上に立ち、両手を広げると夜に向かって飛び出した。
着物の袖と袴の裾がひらひらと風を切り、みるみる遠ざかって行く。
「思い出したら、また来るぜよーっ」
声が頭の中に響いた。
月に向かって昇って行く龍は、しだいに小さくなっていく。
そして星の瞬きの中に消えた。

大きなくしゃみを一つして、残りの酒を飲干すと部屋に戻った。

坂本龍馬。享年33歳。合掌。



09:47:00 | mogmas | | TrackBacks