October 27, 2006

ふとっちょくんの密会

  
私は口の軽い男ではない。
秘密は守る。
だから今まで見たり聞いたりした他人の秘め事を、自分の胸の奥底へしまい、誰にも明かさず墓場まで持ってゆくつもりだ。
私の死後、この日記が発見されて都合が悪くなる御仁がいたとしても、もはや死者を鞭打つことはできないのだ。
そのつもりでここには、赤裸々にありのままを綴ることにする。

「横浜のふとっちょくん」は妻も子もある身の上で、私の知る限り女がらみの浮ついた話は聞いたことがない。
彼のブログを見ても、ひじょうに子煩悩で、遅咲きながら ♪ サイクリング、サイクリング、ヤッホー、ヤッホー ♪に目覚めてしまい、世間へ公開している私生活はほのぼのとして人畜無害な中年男にみえる。
だが、彼の3本目の短い足の様子も熟知している私でも、秘めた女性関係まではいちいち関与していられないから、紆余曲折の中年に成長するまで、彼がどこで何をしていたかは不明の時期があった。

その夜の予約を、彼はいつものように飄々と連絡してきて、私は例によっておちゃらけて、同伴は妙齢の婦人に限るとメールで返したのだった。
すると彼はどこか含みのある返信をよこしてきた。
まさに通じるものがあるとすれば、脛に傷持つ者同志の暗黙の了解というヤツだったのだ。

口開け早々妙齢の女性と現れた「ふとっちょくん」は、「これで何も見なかったことにしてください」とでも言うように「残波・30度」の一升瓶を差し出した。
ウムウム、泡盛初心者の気遣い、ありがたくお受けしよう。
だが、飲むほどに語るに落ちてしまうのは酔っぱらいの悲しい性で、私は聞くともなしにカウンターの2人の会話を耳にし、連れの女性のプロフィールを組み立てるのであった。

今や天下の自由人、30半ばは女の花盛り、かつてイベント・コンパニオンとして活躍した経歴は伊達じゃない。
背筋はしゃっきり、言葉遣いもしゃっきり、パンパンッと言い放つセリフ回しは痛快でもある。
跳梁跋扈のエステ業界で、ハード・ゲイ・・・じゃ、なくて、ハード・マッサージともいえるリンパ・マッサージを得意技とし、柔な男など2秒で悲鳴を上げさせるというその女性を、私は「リンパさん」と名付けた。

「リンパさん」の普段の縄張りは、地べたに座り込んだ飲んだくれが物欲しげに通行人を見上げる駅前の素敵な横浜・石川町界隈だそうで、時々南千住あたりまで遠征してくるのだという。
お酒はなんでもイケル口のようで、あとに引きずるもののある「ふとっちょくん」よりも勢いがある。
2人は少年・少女の頃からの知り合いで、ある日mixiで偶然に再会したらしく、「リンパさん」は隠し事などなにもないんじゃー、というように堂々と本名を晒していたためにわかったのだという。
でももうお酒を嗜む大人の男と女ゆえ、あんなことやこんなことなど、何があっても自己責任の素晴らしい生活を満喫できるので、私は野暮な突っ込みなど入れないのだ。

開店から閉店まで、我が店の内情をつぶさに見られて、引っ切りなしに会話していた「ふとっちょくん」と「リンパさん」は、ともに横浜方面の電車の時間を気にして店を出た。
どこへ帰ったかは知らない。
私にはここまでのことで充分である。
たぶん「ふとっちょくん」が自らのブログでカミングアウトするだろう。
彼のブログを訪ねたら、必ずどこかをクリックしてほしいということだ。
それで彼が心安らかになるのなら、たやすいことではないではないか。
クリック1つが彼の尻を打つという懺悔なのかもしれない。

私は口の堅い男。
ここに書いたことは誰にも見せず、墓場まで持ってゆくつもりだ・・・。

15:47:49 | mogmas | | TrackBacks