November 02, 2006

トンマッコルへようこそ

  
「悪魔のあっくん」に「硫黄島へ行かずに朝鮮半島でなにしてるんじゃ !?」と突っ込まれること必至なので、取りあえず先に言い訳しておこう。

新聞屋さんが映画の招待券をくれたのだ。
しかし錦糸町の楽天地限定で、10月31日までという券だったのだ。
取りたててみたいと思う映画がかかっていなかったので、間際になってしまったのだ。
「トンマッコル」のお話はなんとなく聞いたことがあったし、朝鮮戦争についてはよくわかっていないこともあり、かあちゃんは韓国映画初体験だというので、チケットを無駄にしたくないから行ってみたのだ。

錦糸町にもシネコンができたので、楽天地はがらがらだと思ったら、けっこう人が並んで待っているではないか。
韓国映画、侮り難し。

水墨画のような、滲んだ筆文字のような、落ちついた趣きのあるオープニングから一転、朝鮮半島を二分した地獄の戦場へ観客は放り出される。
同じ民族が別れて戦う理由すら知らない若い人民軍の兵士と、部下を大勢死なせてしまった中隊長、罪のない民衆を巻き込む戦闘を続けられなくなった韓国軍少尉など、生きのびるために山中を彷徨う兵士たちがやがてたどり着いたのは、戦争などどこ吹く風と、まるで世俗とは隔絶したのどかな、時が止まったかのような小さな村「トンマッコル」だった。
そこには墜落した戦闘機から助け出されたアメリカ人兵士もいて、兵隊たちは一触即発の睨み合いを続けるが、戦争よりもジャガイモや蜂蜜の収穫や畑を荒らすイノシシの方が気になる村人は、彼らを相手にせず普段の営みを続ける。
やがて来る冬のための蓄えをしておかなければならないからだ。
しかし、不発だと思っていた手榴弾が蔵を吹っ飛ばし、中にあったトウモロコシがはじけて空高く舞い上がり、白いポップコーンが雪のように、花吹雪のように降り注ぐ。
この幻想的な出来事を境に、兵士たちの気持ちが少しずつ変化してゆく・・・。

センスのいい、ほのぼのとした、しかし容赦ない戦争の現実をまざまざと見せる、じつに見事な反戦ファンタジー映画だ。
「グエムル」でもそうだったが、アメリカ=連合軍のエゴが事態を深刻に複雑にしているというメッセージは、韓国映画ならではの描きどころだ。
相変わらず役者の層は深くて熱いし、銃器の取り扱いやCGも増々冴え渡る。

「トンマッコル」のような村は、かつては日本にもたくさんあったろう。
いや、世界中にあったはずだ。
人種や思想や宗教が違っても、夢の理想郷のイメージはみんな似ている。
つまりそれがいい、そうあってほしいという思いは万国共通の平和のイメージなのだ。
それなのに、人は理想郷にとどまれずに争いを起こしてしまう。

最初は憎みあった北と南とアメリカの兵士たちは、理想郷に殉じる「連合軍」になる。
南北統一という暗喩が彼らの戦いに込められているのだろう。

「トンマッコル」の空には、季節に関係なくたくさんの蝶が羽ばたいている。
それはこの山で散っていった多くの命の象徴なのかもしれない。

タダで見てしまったが、お金を払う価値のある映画だったと思う。

10:46:00 | mogmas | | TrackBacks