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基本のブタ玉

　　
とうとう「鉄板少女アカネ」ちゃんが最終回になってしまった。
最終対決は、基本の“ブタ玉”である。
でも、放送ではその勝負を見せず、アカネちゃんの勝利としてしまったことが悔やまれる。
奇しくも、父から送られたコテの名は「小鉄」だ。
当店の鉄板の名を「虎徹」とつけたのは、ただの偶然だが、ブタ玉を「小鉄」で押さえてしまうアカネちゃんの技には納得がいかない。
テレビ屋の底の浅さが透けて見える残念な結末であった。
視聴率というつまらない壁に阻まれ、鉄板少女はあやふやな勝利に甘んじて旅の空でお好み焼を引っくり返している。
アカネちゃんがこだわったブタ玉とはどんなものだつたのか、玉と呼ぶからには関西系に他ならず、市井のお好み焼屋のオヤジとしては、どうしてもそれが気にかかる。

そこで、当店のブタ玉のムービーを公開して、オヤジの思いを伝えたい。
　　
お好み焼・ブタ玉 posted from フォト蔵

たかがお好み、されどお好み・・・。
この一見簡単なブタ玉がきちんと焼けるかどうかで、他のすべての焼物の良否が決まるといっても過言ではありません。
ではここで、久しぶりに真面目にモグランポのお好み焼のコマーシャルを。

世界でも小麦粉の種類が多い日本でも、スーパーなどで手軽に買える小麦粉はほとんどが精白した真っ白な小麦粉で、洗練されているとはいえ、健康志向の昨今いかがなものでしょうか。
モグランポでは、すべての元になる小麦粉は無漂白の国産小麦を使用。
薄力粉と強力粉の中間よりやや薄力粉に近い、しなやかさとコシを備えた優れものの粉に、昆布出汁と山芋のすりおろしを加え、一晩寝かせて粉臭さを飛ばしてから使います。
30年前に、初めて関西風のお好み焼を食べて以来、ずっと信頼し求めていた小麦粉であります。
約2年半前に、その生地に一匙加えることでよりふわっと、サクッと焼き上がる素材を発見（でもそれは今のところ秘密）し、オープン時よりさらに進化した生地になったと自負しています。
キャベツと玉子、天かすと紅ショウガを加え、空気を練りこむようにサッと混ぜたら、鉄板の上に流します。
中心から端へ、やさしく広げていき、豚のバラ肉をのせます。
待つこと約5分。
回りが色づいてきたら、裏返しておよそ3分。
こんがり豚肉が焼けたら再び返して約2分。
合計約10分、けっして早くはできません。
今の時代、どちらかといえばスローフードの方でしょう。
作り置きはしていないので、この10分が待てない人が、テイクアウトのお客様に多いのが残念です。

仕上げにソース。
これはお好み焼専用に開発された、酵素分解という方法で野菜の酸味・甘味を引き出した無添加のもの。
これをたっぷり、そしてマヨネーズ。
昭和21年頃に、大阪「ぼてじゅう」の店主が、進駐軍の払い下げのマヨネーズを試みにぬってみたら旨かったところから広まったという、お好み焼の歴史の中でもけっこう初期の頃からおこなわれているもの。
モグランポでは、ソースの酸味とケンカしないように、酸味を押さえ、またディスペンサーで出しやすいように固さを調整して作っています。
オヤジの好みからいえば、タポッとお好みの上にのせ、ハケでぐるぐる混ぜ合わせた方が好きなのですが、見た目重視ということで、今はディスペンサーでかけております。
最後にかつお節、関西出身の年配のお客様は、いつも食べる時にしげしげとこれを見て「いいかつお節だねぇ、血合いがなくて、きれいだねぇ」と褒めてくださいます。
東京で、築地あたりまで探しては見たものの、このかつお節のような白く爽やかなかつお節がなくて、大阪の黒門市場から直送してもらっています。
関西と関東では、かつお節に対する見方も少し違うということがわかります。
そして青のり。
関東圏で使われる青のりは、だいたい「お歯黒」や歯に詰まってしまうような大きさのものが多いような気がします。
きれいなお姉さんが歯をシーハーする様はあまり格好のいいものではありません。
そこで当店では、小さく、されど香りの高い、四万十川で穫れる「島田海苔」の粉状のものを使っています。
市場へ買いに行くと、店の親父がこの10年いつも変わらずニコニコして「最上級の島田粉お買い上げぇ ! 」と歌うようにいいます。

小麦粉、ソース、かつお節、天かす、お好み焼を構成する重要な4品はすべて関西からの直送です。
これでブタ玉中サイズのお値段は、400円也。
縁日の生焼けのお好み焼よりも安い。
アカネちゃんにも食べさせたい。
それがモグランポのお好み焼の“一分”でがんす。

「鉄板少女アカネ」ちゃんよ、勝負など意味がない。
求めるものは最終的にお客様が答えを出すのだ。
本拠地の店をおっ放り出して旅で焼く、それはテレビ屋の体裁だけなのだ。
5センチの厚さの鉄板は担げないけれど、多くのものを背負って少女は大人になるのです。
幸薄い娘よ、さらば !