April 09, 2006

SPIRIT-真の勝利

ジェット・リー演じる霍元甲(フォ・ユァンジャ)は20世紀の初頭に実在し活躍した伝説の武術家だ。
欧米諸国や日本が“まだ目覚めぬ国”中国に進出し、食いものにしようと虎視眈々と狙っていた時代、中国民衆の心に勇気を与えた英雄として今に語り継がれている。

ブルース・リーの映画の中でオヤジが最も好きな作品「ドラゴン怒りの鉄拳」(原題『精武門』)のモデルになり、のちにジェット・リー制作・主演でリメイクされた「フィスト・オブ・レジェンド/怒りの鉄拳」(原題『精武英雄』)でも描かれた主人公“陳真”は、霍元甲(フォ・ユァンジャ)と共に作り上げた「精武体操学校」(元甲の死後、精武体育会となる)の設立者、陳公哲がモデルだ。
映画の原題にある“精武”とはこの「精武体育会」のことにほかならず、ジェット・リー、ブルース・リーという現代の2大武術家に深く影響を与えている。
そんな影響力を持つ武術の団体なのに、なぜ「体育」というような名前が付いているのかというと、諸外国から様々な干渉を受けて、それに反発した武術結社が「排外主義運動」を各地で起こすという激動の時代背景があり、取り締まる清朝の官憲から武術結社としてマークされるのを避けるため、あえて「体操」や「体育」の語を用いたのだ。

単にアクション映画、カンフー映画として、スカッとしたいために観るのもいいが、時代背景をある程度理解して観るとより楽しめると思うのですな。
で、武術を極めた役者としてジェット・リーがいつかはやってみたかった霍元甲(フォ・ユァンジャ)の物語は、アメリカでゆるい映画の主演が多かったジェット・リーが、久々に「李連杰」として帰ってきたと思わせるすばらしい技の連続で、息も付かせぬスピードと切れは、この人しかできないと実感させられる。
そして、相手を完膚なきまでに叩きのめすことが勝利ではない、という武術の思想を悟るまでの道のりを、情緒ある映像と魅力的な役者たちで魅せていく。

ジェット・リーがかつて演じた「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」シリーズのウォン・フェイフォンを思わせる武術の巨人に成長した霍元甲が、最後に対戦する日本人武道家を、吹き替えなしで中村獅童が熱演している。
“霍元甲は日本人に毒殺された”という中国人のお約束ごとを踏まえつつも、崇高な魂で戦った日本人武道家をおとしめるような描き方はしていない。
中村獅童、いいところを持っていったなぁと思う反面、“悪い日本人”を演じて最近引っ張りだこの原田眞人は、「ラストサムライ」のときと瓜二つの感じので“恥っさらし”のパターンを演じている。

いろいろな見方のできる映画ではあるが、ジェット・リー=李連杰の代表作になることは間違いないと思う。
激しくも華麗なアクションの中に、戦いを止めることが“武”であり、真の勝利をもたらすと教えてくれる映画である。


10:24:00 | mogmas | | TrackBacks