June 29, 2006

箪笥

  
「韓国美少女ホラー」ということで、一頃けっこう目についていた作品だが、ブームに当て込んで、なんでもかんでも“韓流”にいささか食傷気味だったため、気にはしていたが見るまでには至らなかった。
しかし、最近のオヤジには恐怖が不足しており、身の毛もよだつような体験が味わいたかった。
どこの国のものでもかまわないが、とにかく怖がらせてほしい。
夜中にトイレに行けないほど、何度も背後を振り返ってしまう、恐ろしい映像体験を欲しているのだ。

それではと試しに「箪笥」を借りてみた。
韓国の俳優さんは、かつての日本映画のように熱い演技をする人が多いが、女優さんもまた多彩だ。
今の日本では絶滅危惧種の「黒髪、清楚、清純」の乙女が、この映画には登場する。
美少女は狂気と薄幸と試煉を身にまとい、惨劇の予感を漂わせ、運命の糸に操られる。
映像はとても穏やかに、ていねいに、恐怖の序章を描いていく。

山の中の湖の畔に建つ、和洋折中ならぬ韓洋折中の別荘が惨劇の舞台。
継母と思われる女性と姉妹の確執、秘密を持っていそうな父は娘に距離をおかれ、伏し目がちでなにも言い出せない。
なにやらギクシャクした家族の関係の中で、姉だけをたよりにする妹の身に何かがおこることを匂わせて前半が過ぎる。
タイトルの「箪笥」というのは小ぎれいな洋服ダンスらしく、引出しつきの服をたたんでしまう箪笥ではないのに、まず裏切られる。

ピアノの鍵盤を激しく叩くような「びっくり音」や、糸の切れた操り人形のような動きの幽霊、継母の狂気の表情など、「ここは怖がるところですよ」というおなじみのシーンがしだいに増えてくる。
灯りを消し、ヘッドホンをつけて観賞しているオヤジは、その時背後に蠢く気配を感じて、一瞬ゾワ〜ッとする。
音もなく階段を上がり、最上段に両手を添えてこちらを見ているのは、だれあろう、ばあさんであった。
「まだ、おきてるのかい?」
ああ、びっくりした・・・。
大きなお世話だ ! とっとと寝てくれ !

結局「箪笥」には、たいして恐怖するようなものはモノは入っていなかったのである。
箸が転んでも怖がる若い娘ならともかく、オヤジを脅かすには至らなかった。
今夜一番恐ろしかったのは、目から上を階段から覗かせてこちらを見ていたばあさんであった。
美少女の狂気も怖いが、ばあさんの無表情はもっと怖い。
もし「箪笥」からばあさんが出てきたら、そりゃぁもう怖い。
そんなふうになったら、再び老人病院へ連れて行かなけれゃあならないもんね・・・。

10:07:00 | mogmas | | TrackBacks