June 09, 2006

花よりもなほ

V6の岡田くんが主演しているからといって、アイドル映画ではない。
脇の甘い、間つなぎのような映画でもない。
コミカルな時代劇ではあるけれど、細部にまで気が配られており、テレビでお馴染みの都合のいいチャンバラではない。
正統派「忠臣蔵」ファンには受け入れ難いことかもしれないが、ユニークな切り口で「四十七士」を描いた作品でもあるので、オヤジには面白かった。

時は元禄15年、赤穂の殿様が江戸城松の廊下で刃傷に及んでから1年、華やかな元禄文化には縁のない江戸の片隅の、まるで廃屋のような貧乏長屋に、個性的でわけありな住人たちが店賃を払わず(払えず)その日暮らしを続けている。
「さむれぇは、何もつくらねぇでえばりくさってやがる」と酔っぱらってクダをまく町人に、何も言い返せない青木宗左衛門(岡田くん)は信州松本から父の敵討ちをするために出てきた武士、剣の腕はからきしだけど、オクテでお人好しの好青年だ。
赤穂浪士の仇討ちが先か、宗左衛門の本懐が先か、侍が職業軍人である必要のなくなった太平の世の中に、それぞれの思いを込めた“もののふ”のあり方が描かれていく。

世界一美しく、リサイクルの徹底した都市「江戸」の掃き溜めのような長屋でも、その自然の法則は生活の糧になっていて、“クソ”が“モチ”になって返ってくるということは子供でも知っているのだ。
テレビの時代劇ではお目にかかれない「井戸替え」の行事や、「紙屑買い」といった貧乏長屋の住人には大事な生活の一部も、四季を通じて丁寧に描かれている。

「用心棒」の、埃だらけのボロを着込んだ町人たちを彷彿とさせる、黒澤和子の衣装デザインもいいし、テーマ音楽は心に残る。
なによりそれらをまとった、クセのある脇役の一人一人が生き生きとして、バイタリティーに溢れている。
キム兄や竜ちゃんはまさにはまり役だし、古田新太も平泉成も絶品だ。
宮沢りえちゃんはほんとうに江戸美人顔だし、もはや時代劇にはなくてはならない女優だ。
岡田くんも男前でなかなかいいですな。
是枝監督は子供あしらいはお手のものなのだろうか、子役もじつに自然でよい。

今年見た10本の中で、日本映画は「男たちの大和」「ガメラ」に次いで3本目。
採点をすると、この「花よりもなほ」が現在トップだなぁ。
ちなみに、タイトルの「花よりもなほ」は、浅野内匠頭の辞世の句から採られたということぐらいは知っといてもソンはないと思うのですな。


09:28:00 | mogmas | | TrackBacks