October 07, 2007

真夜中のモツ煮込み

  
午前零時を回って、ようやくモツの仕込みにかかれた。
かあちゃんはお疲れが顔に出ていたので、先に帰した。

本日はいろいろなものが売り切れてしまい、ありがたいことではあるが間一髪だった。
スジ・コンがおしまい、ご飯がおしまい、モツがおしまい等々、なによりも肝心のお好み焼の生地がなくなってしまったのだ。
途中でぞれぞれ段取りはしていたのだが、忙しくてとても出来なかった。

お好み焼の最後の一枚とモツの煮込みは、テレビにも何度も出ている某有名焼肉屋さんの社長のお腹に収まった。
この社長さん、昔からニコやかでふくよかだったが、最近さらにお肥えのようで、背広の下のワイシャツのお腹が窮屈そうだ。
夏でも冬でも下駄を履いてカランコロンとやって来て、ゆうに二人分はあるオーダーをして、汗をかきかき召し上がる。
スーツに下駄履き、腕には金のロレックスで、相撲取りのような体躯はいやが上にも人目を引く。
カウンターに同席した人が、その大食漢をチラチラ盗み見るのは致し方がない。
以前は生ビールのあと、冷や酒をグビッと飲んでいたのに、最近はもっぱらウーロン茶ということは、ドクターストップがかかったに違いない。
この日は食べている途中で、子供のようにウトウトしてしまっていた。
たいへんにお疲れのご様子。
でもモツ煮込みなんてペロッとかっ込み、いつも「旨いねぇ」と言ってくださる。
本職の焼肉屋さんの社長に誉められるのは、お世辞でもうれしい。

牛スジの下茹でを終え、モツの下茹でにかかる。
匂い消しのため、ネギの青いところや泡盛などを入れて茹でる。
実は牛スジとモツは密接な関係にある。
圧力鍋でじっくり煮込んだスジ・コンは、ザルにあけ汁をきって冷ます。
この煮込んだ汁を、前は捨ててしまっていた。
もったいない、せっかくいい味が出ているので、何か利用法はないかと考えた末たどり着いたのがモツ煮込みだったのだ。
しかし、このままでは油分が多くて使えない。
あら熱をとった汁を、一晩冷蔵庫で寝かせ、表面に厚さ1センチほどの固まった油を取り除いてベースにし、「アリラン亭」のコチジャンと八丁味噌などを加えて味を整えたのがモツ煮込みの汁になる。

当店で使用しているモツは、ブタの生の大腸の部分。
新鮮が命の内臓肉を、確実に仕入れられるルートを開発したおかげで、最初の頃とは食感も味も格段に良くなった。
モグ流は野菜やコンニャクなどを入れずにモツのみで勝負だが、もう少し寒くなってきたら、具沢山のモツ鍋も計画中。
現在「ハーバーくん」を使って人体実験を繰り返している。

茹で上がったモツを、食べやすい大きさに切る。
「グチョ、ベチッ・・・」ホラー映画の効果音になりそうな音が、深夜の店内に響く、こういうのが苦手な人は目を背けたくなる光景だ。
だが、小奇麗なフレンチやイタリアンでも、厨房の中ではこんなホラー音が響き渡り、血が流れているのは大差ない。
太古の昔からウマいものを食べようと思ったら、人は手を汚さなければならない。
なんてことをツラツラ考えながら、煮込んで味をととのえた時は、すでに午前1時を過ぎていた。
あとは翌日、最終的に味を見て、もう少し煮込めばOKだ。

店を出て駅の方へ歩いていくと、夜気をかき分け酔っ払いの「オイ ! オイ ! オイ ! 」というアニマル浜口みたいな怒声が聞こえてきた。
中国人の呼び込みのオネーさんや通行人が足を止めて、遠巻きに声の方を見ている。
安田大サーカスのヒロくんみたいなおデブちゃんの胸ぐらを、その半分ほどの大きさのスーツ姿のオジさんが(ま、オヤジよりも若いが)つかまえていた。
しかし声の主は、その傍らで行司かレフェリーのように仁王立ちしている、半袖ワイシャツのオジさん(ま、オヤジよりも若いが)だった。
中途半端な酒で、元気なことでございます。
ふと見ればパトカーとお巡りさんが到着した様子。
オヤジの通り道を塞ぐように、酔っ払い達とお巡りさんが立っている。
一切お構えなしに、その真ん中を通り抜けようとしたら、胸ぐら掴みのオジさんが(ま、オヤジよりも若いが)よろけてオヤジの肩を押した。
今しがた内蔵を「グチョ、ベチッ・・・」とホラーな感じで切ったばかりで気分が高揚していたので、反射的にぶつかったオジさん(くどいようだが、オヤジよりも若造だ)を押し返したら、フラフラッと足元も定まらず尻餅をついた。
フン、そんなことは一切お構えなしに、それを横目にスタスタと歩み去った。
心の中では「お巡りさん、そんな奴ぁワッパかけてトラ箱へぶち込んで反省させた方が世のためだぜ」と捨て台詞を残して。

ああ、腹へった。


13:29:00 | mogmas | | TrackBacks