December 04, 2007

椿三十郎

  
なぜ今「椿三十郎」なのか ?

思えば今年の初め、1月28日の11時41分の段階で、今日あることをオヤジは予見していたのだ。
その時の「最近見たDVD」というタイトルのブログで、監督「森田芳光」についてこう書いているのでちょっと引用しよう。

《 その2、「間宮兄弟」

正直に言うと、森田芳光という人をおもしろいと思ったことが一度もない。
脚本も監督作も何度も見ているが、笑えたためしがない。
なのにどうして見るのかといえば、魔が差したとしかいいようがない。
あと二つには、この作品に我が愛しの沢尻エリカちゃんがご出演なさっていることと、森田芳光は、なんと無謀にもあの名作「椿三十郎」をリメイクするというので、監視の目を怠ってはならんと思ったからだ。
しかし、残念なことに、愛しの沢尻エリカちゃんのみならず、中島みゆき様や他の役者の個人芸は光るものの、どうしても話がわざとらしく、「ここは笑うところですよー」みたいな前振りも臭く、森田芳光臭がプンプン漂う、単館で幸い、でもテレビのスペシャルドラマで充分な、ちんまいお話に辟易した。
なぜなぜ森田芳光がもてはやされるのか ?
それは観客のレベルがひく〜くなっちゃっているせいと、笑いの質がお手軽なものになっていることに他ならないのだ。
とにかく森田芳光とは、笑いの沸点が違うということが完全に明らかになった。
それがわかっただけでもよかったかもしれない。
この中途半端なほのぼのを、劇場へ見に行かなくて本当によかったと再確認したのである。 》

まあなんて失礼な、でも的を得た感想でありましょうか。
だが今回は「魔が差した」のではなく、「監視の目を怠ってはならん」ので劇場へ足を運んだのである。
それに、12月1日の「映画サービスデー」の恩恵をはじめて受けられたのだから、多少のことにはこのさい目をつぶるのだ。

で、結論から言うと、やはり「森田芳光」という人をおもしろいと思えず、「ここは笑うところですよー」みたいな前振りは相変わらず臭く、笑いの沸点も緊張感も共有できず、観客のレベルがひく〜くなっちゃっているのに合わせた(いい意味でわかりやすい)、テレビのスペシャルドラマではいけなかったんですか ? みたいな、中途半端にほのぼのした「椿三十郎」でありました。

いやいやでも、「織田裕二」も「豊川悦司」も「佐々木蔵之介」も健闘していると思いますよ。
入門編としてはいいんじゃないですか。
黒澤+三船版の「椿三十郎」の入門編としてはいいんじゃないですか。
入門編としては意義があるんじゃないですか。
やっぱり脚本がいいから、あらためて脚本の素晴らしさを再確認できましたしね。
この脚本を変えてしまったらガタガタですよねぇ。
よかった、まったく同じシナリオで。
でも上映時間は119分。
オリジナルより23分も長い。
てぇことは、いろいろ親切にわかりやすい画を撮って、「ここは笑うところですよー」みたいな前振りも入れて、まぁがんばっちゃったんですな。

一緒に見たかあちゃんが、さり気なく言った一言が「織田・三十郎」の殺陣を物語っています。
「どうして全体を映さないのかなぁ ? 」
《 解説 》
「アップとかバストショットとかカット割りが多くて、見苦しくって、「三十郎」の強さが伝わってこないよー」と言いたいのですな。森田芳光の苦渋の策、敗れたり。

ちなみにかあちゃんは、黒澤+三船版の「椿三十郎」をちゃんと観たことはないんだけど。
まぁねー、ちょいと練習したぐらいじゃ殺陣じゃなくて“横”にしかなんないわけで、人を斬ることはできないよねぇ。
だから、ラストはああしかなんないんだよねぇ。
そりゃしょうがないよねぇ。
可哀想だけど、織田くんがどんなにマネしようったって、「世界のミフネ」にゃあらゆる部分で及ばないし、
「Do you have any spirits ? 」と聞かれて
「Yes ! I have Yamato-Damashii ! 」なんて言えないもんね。

でぇもですよ、入門編としてはいいんじゃないですか、入門編としては。
これ観てどんどん若い人が黒澤映画と三船敏郎のすごさに触れてくれれば、それはそれで意義のあることじゃないですかね。
やったね、「森田芳光」。
テレビのスペシャルドラマの「天国と地獄」や「生きる」が、アレ、アレ、アレの情けない有り様だったことを考えれば、お金を取って観せるだけのことは少しはあると言ってあげよう。


だけどちっともお腹がいっぱいにならなかったので、もう一本「ベオウルフ」なんぞ観てしまい、「椿三十郎」公開記念なんていって黒澤DVDをいっぱい売っていたので、本家「椿三十郎」と「七人の侍」を買ってしまった。
ビデオは持っているのだけれど、どうしても「椿三十郎」のラストシーンの決闘を、DVDのコマ送りでじっくり観たかったのだ。

その晩、観た。
じっくり、何十回もコマ送りして、「三船・三十郎」の壮絶な太刀さばきを堪能した。
あまりに超絶な速さの一太刀は、スロー再生では確認できないから、コマ送りで進めては戻し、進めては戻し、しまいにゃ愛刀「菊一文字」を引っ張り出して手の動きをゆっくりマネてみたりした。
すごい。まったくすごい。
こんな演出も、こんな演技も、もはやできる人はいないだろう。

織田版「椿三十郎」は違う展開だから、いいや、オリジナル版のラストを書いてみよう。

刀の柄ひとつ分の距離で対峙した「三船・三十郎」と「仲代・室戸半兵衛」が、懐から両手を出して睨み合うこと実に23、4秒。
静止画と見紛うばかりに画面は微動だにせず、しかし緊迫感はたぎり、ついに「仲代・室戸半兵衛」が右手を柄にかけのけ反り気味に刀を20センチほど抜いた時、ようやく「三船・三十郎」の右手が動き、左手が柄にかかり、だがすでに上体は左に傾ぎながら相手の懐へ飛び込む態勢ができている。
「仲代・室戸半兵衛」が刀の切っ先を鞘から抜き放つ寸前、「三船・三十郎」は刀を左手で逆手に抜き、「仲代・室戸半兵衛」が上段に振りかぶった時には、もう刀の峰に右手を添えて刀を押し出し、右腕の下、心臓のあたりを斬り上げている。

まさに抜き手も見せぬ電光の早技 !!

もはや腰まで力がいかない状態で刃がむなしく下ろされた時、「三船・三十郎」の体はそこになく、見事に腰の据わった姿勢で両手と刀はひとつの鋼になって一直線に天へ延びている。
そしてようやく、あの鮮血が・・・・・。

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ほんとうに一瞬、瞬く間の神業。
その名を「逆抜き不意打ち斬り」と云うらしい。
DVDとインターネットのおかげで、やっと解明された「椿三十郎」の剣。

「お見事 ! 」と叫んだら、「椿三十郎」に「ばかやろう」と怒鳴り返されてしまうだろう。
「三十郎」はただ「あばよ」と去ってゆくのみだ。

ついでながら、「椿三十郎」を「用心棒」の続編みたいに言う人がいるが、彼は「桑畑三十郎」とは同一人物ではない。
だって、時代が違うでしょう。
「椿三十郎」はまだ江戸時代の最初のほうで、「用心棒」は幕末じゃないかな。
仲代達矢がピストル持ったり、マフラーしてたりするもんね。
ま、性格は一緒で、こ汚くって凄腕なのも一緒だけどさ。

ハイ、もう時間きました。
それではみなさん、入門編の「椿三十郎」ご覧ください。
「あばよ」



04:47:22 | mogmas | | TrackBacks