February 21, 2007

ヤマちゃん

 
夜11時過ぎに店を閉め、北千住駅の東口を少し行ったところで「こんばんは!」と、声をかけられた。
声の主を見れば、寒い夜だというのに、Tシャツと薄手のジャケットだけの軽装で、鍛えられた胸板が服の上からも見てとれる。
一瞬誰だかわからなかったが、「ヤマちゃん!」とかあちゃんが言ったので思い出した。

あらためて顔を見れば、間違いなく「ヤマちゃん」だ。
それにしてもしばらく会わないうちに、ずいぶん精悍な若者に様変わりしたものだ。
どこか、メジャーに行った松坂大輔を彷彿させる。
「こんな夜にどこ行くの?」
と問うと、
「家、帰るんです」と言う。
「家って、今どこに住んでんの?」
「取手のちょっと先のアパートっす」
その言葉で、オヤジにはピーンときた。
厚い胸板、逞しい太もも・・・、間違いない !
彼は再チャレンジ、しかも本気モード全開で、夢に向って疾走しているのだ。

「ヤマちゃん」は先日お嫁さんになった「エリカちゃん」と一緒で、小僧の小学校の時の同級生だった。
当時から運動がよくできて、走るのも速かった彼は、体育の時間にはいつも小僧に付きっきりで面倒を見てくれた。
運動会のリレーでは、闘争本能がまったくない小僧が、観客の中にオヤジやかあちゃんの顔を見つけると、ニコニコと立ち止まってしまうので、そんなとき「ヤマちゃん」が駆け付け、小僧の手を引いて一緒に走ってくれるのが常だった。

そんな頃から「ヤマちゃん」の夢は競輪の選手になることだったらしく、一時は競輪学校に入るも、なぜかドロップアウトし、アルバイトなどしながら、茶髪の彼女と何度かモグランポへも食べにきてくれた。
しかし、鬱々とした日々だということは、仔細を聞かなくても顔を見ればわかった。
あれから、2、3年ほどは経っているだろうか。

「すっごい、固いねーっ」
おばさんの図々しさで、遠慮なく「ヤマちゃん」の胸板をつついたかあちゃんがため息をもらす。
やはり彼は競輪学校に戻り、鍛えに鍛えたようだ。
デビューは4月に決まったという「ヤマちゃん」の顔は、迷いが吹き飛んだ勝負師の顔つきになっていた。
夢のとば口に立ち、いままさに飛び出さんとする若者の全身から、とても清々しく力強いオーラがにじみ出ている。

「応援してるからね」と励ますと、
「ありがとうございます !」とはにかんで頷いた彼の表情に、いたずらっ子の小学生の面影を見たオヤジは、またまたうれしくなってウルッときてしまった。

走れ 、「ヤマちゃん」 !
なけなしのゼニ持って、オヤジも競輪デビューしちゃうよ〜。
お願い、倍にふやしてぇぇぇぇ〜。

                      イヤだね、生臭い大人は・・・・

14:59:37 | mogmas | | TrackBacks