February 08, 2007

人は死に向かって生きている


叔母は八十二歳で亡くなったが、昭和という時代を充分生きたと思う。
植木等と同い年の大正15年=昭和元年生まれだからパワフルってこともないが、避難した防空壕から顔を覗かせて、飛来したB29がサーチライトに浮かび上がる姿に「カッコいいなぁ」と呟いた娘は、65歳を過ぎた頃、知人の葬式帰りに孫と待ち合わせしてプールに行き、初めてのウォーター・スライダーにはしゃぐ武勇伝の持ち主だった。
元気なバアサマと言うほかない。

生前叔母が言った。
「誰でも産まれた時から、あの世へ向かって歩いてくんだからさ、ジタバタしたってしょうがないよ。だまってたって順番にお迎えが来るんだから」

列車は軽井沢を過ぎた。
雪を戴いた浅間山が美しい。
千曲川が日差しにキラキラ輝いている。
コーヒー一杯だけの空腹をかかえて、列車は叔母の元へ走る。
この瞬間も我々は、確実に死へ向かって生きている。



11:46:08 | mogmas | | TrackBacks