March 26, 2007

ニッチモ、サッチモ !!


昔々、ちょいとウンチクのありそうな生意気な若者が、でっかいスピーカーの真ん前に腰を下ろし、俯いて目をつぶり、ちょいとフケまじりの長髪を悪霊に憑依されたごとく左右に振って、ジャズにひたっていた。
冷めたコーヒーと煙草の煙が充満する喫茶店。
ジャズのジャの字も知らなかったワタシは、シラケ気味で窓の外を見やり、ため息まじりにその儀式が終わるのを待った。
やがて、滝に打たれた坊さんのようなすっきりした顔でその男が正面のソファーに座ると、こう切り出した。
「ところで君は、何を聴くんだ ? 」
ええぇぇっ〜、唐突にこの野郎なにを言うんだ。
まさかこの場で「南沙織」や「麻丘めぐみ」だなんていえるかぁ〜。
「ま、まぁ、デキシーランド・ジャズとか・・・」
と苦し紛れに口にすると、その男小馬鹿にしたように口をひん曲げてニャリとし、
「今度レコード貸してやるから、勉強しなよ」
といいやがった。
その野郎とは、その後酒も飲まなかったし、今どこでどうしているのかも知らない。
若気のいったりきたりの思い出だ。

今夜、なぜかジャズにひたりたくなった。
ワタシの林檎娘にも、iTunesという便利なものが搭載されているので、調子に乗ってどんどん曲を貯め込んでいる。
その中で今夜選んだのは、ルイ・“サッチモ”・アームストロングのベストアルバムだった。
しぼり出すような、時には愛嬌のある、時には切ないしわがれ声が、深夜の酔っぱらいの両耳にこだまする。

サッチモという愛称は「satchel mouth」(がま口のような口)というのをイギリス人記者が聞き違えたとする説や、「Such a mouth!」(なんて口だ!)から来たとする説などがあるそうだ。その他、ポップス(Pops)、ディッパー・マウス(Dipper Mouth)という愛称もあるらしい。
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いずれにしてもでっかい口の、愛嬌のある黒人のおっさんだ。
ルイ・アームストロングという名前に ?? であっても、CMなどで「この素晴らしき世界(What a Wonderful World)」や「聖者の行進」「ハロー・ドリー」は一度は聞いたことがあるのではないだろうか。
スキャットをジャズ史上初めて録音した人物、ブルーズを体現するシンガー、ハートフルな、狂おしくも優しい、トランペッター、ミスター・デキシーランド、ニューオーリンズ・ジャズの立役者“サッチモ”。

ロン毛のフケ野郎め、30年かかって勉強したぜ。
いまだにお前さんがデキシーランド・ジャズと“サッチモ”を小馬鹿にするようなら、頭から安酒を振りかけてシャンプーしてやる !

だいぶ酒がまわってきたようだ。
「Moon River」で不覚にもウルウルしてしまった。
バーボンでうがいしても“サッチモ”の声にはならないが、エアー・トランペットでも練習して調子こいてやるか。
うわぁ、「La vie en rose」ですぜ。
“ドゥビ ダバ シュビ ダバ ドゥゥゥゥ〜 ドゥドッピドゥ〜〜〜”で夜が明けるときたもんだ。

10:58:00 | mogmas | | TrackBacks