April 12, 2007

電送人間

  
軍国キャバレー「DAIHONEI」の入り口には、剣を装着した三八式歩兵銃を持った兵士が、歩哨よろしく直立不動で呼び込みをしている。
店内でも歩兵の格好をしたボーイが、キビキビした動作で客のオーダーをとり、ダンスフロアでは全身を金ピカにぬった半裸のダンサーが、扇情的な踊りを披露している。
各テーブルには胸元が大きく開いたミニスカートのセーラー服(女学生の制服ではなく、セーラー・水兵さんの制服)姿のホステスがついている。

新聞記者の桐岡(鶴田浩二)は警視庁の小林警部(平田昭彦)と向かい合わせで席についてこの店を張り込んでいるが、つまらなそうな顔で黙っているので、
「こちら、ぜんぜんおとなしいのね。模範兵ね」
と、ホステスにいわれてしまう。
グラスの酒を1口飲んだ小林警部は顔をしかめ、
「やけにヒリヒリする酒だな。なんて酒だ ? 」
と訊くと、ホステス平然と
「焼夷弾よ」
と答える。
「もっといいの持ってこいよ。特上な」
するとホステス敬礼して、
「ハイ、ミサイル2丁 !! 」
急いでやってきたボーイもシャキッと敬礼して
「ハイ、了解 !! 」
「おい、氷嚢(アイスのことですな)もたのむ」
ホステス立ち上がって最敬礼。
「ハイ、ただいま輸送してまいります」
と去ると、小林警部と桐岡は苦笑する。
やがてバンドが軍艦マーチを演奏すると、客はダンスフロアにホステスを誘い踊り出す。

いかがでしょう。
これが1960年公開の東宝映画「電送人間」の前半、グッときちゃう1シーンであります。
現在の地球の飲み屋には飽き飽きしている「宇宙人ジョーンズ」でなくても、ちょっと行ってみたいですなキャバレー「DAIHONEI」。
しかし、太平洋戦争からわずか15年でこのおちょくりはさすがです。
鉄人28号を駆って、難事件を解決している正太郎くんもびっくりだ。

主人公桐岡(鶴田浩二)は学芸部で科学記事を書いているのに、小林警部(平田昭彦様 !! )と大学時代の同窓生ということで社会部を押しのけて事件に首を突っ込むが、終始おもしろくない顔つきで、ろくろく見せ場もなく「電送人間・須藤兵長」(中丸忠雄)の不気味さに押されっぱなしだ。
それはまるで「なんでスターのオレが、こんなキワモノ映画に出なきゃならネェんだ」と言っているようで、本作品出演後ほどなくして鶴田浩二は東映へ移籍してしまう。
物語は、犯行予告と陸軍の認識票を送りつけ、銃剣で刺殺する連続殺人鬼「銃剣魔」を追う警察と、密輸疑惑と戦時中の秘密を抱えた陸軍中尉や諜報員の三国人(日本の旧植民地だった国や地域の国民を指す。一部では差別用語扱いされている)らのグルーブと、犯行現場に落ちていた「クライオトロン」という物質から秘密兵器「電送機」に迫ろうとする新聞記者の三つ巴の謎解きサスペンス・スリラーになっている。

脚本は「キンゴジ」「モスゴジ」を書き、「アンコ椿は恋の花」でヒットを飛ばした「関沢新一」。
監督は昭和の末期ゴジラを手がけ、特撮ファンの間では不人気な「福田純」。
レトロ・フューチャーな電送機のデザインと、手作り感いっぱいの走査線をはめ込んだ電送人間のイメージは、今見てもたまらなくチープでカッコいい。
特撮はもちろん円谷英二だ。

なかなかお話としては悪くないのに、新聞記者の桐岡(鶴田浩二)のつまらなそうな顔と、すべての締めくくりを自然の驚異、怪獣すらもかなわない天変地異で片付けてしまう東宝特撮のお約束シーンがちょっと興ざめだ。
欲求不満に落ち入ってしまった人は、軍国キャバレー「DAIHONEI」のような店が歌舞伎町辺りにないか調べてしまうかもしれないので、ご注意を。




14:47:50 | mogmas | | TrackBacks