April 06, 2007

鉄人28号 白昼の残月

  
♪ すすめ〜 すすめ〜 正太郎〜 ♪のマーチが頭の中で鳴り響いている我々は、整理番号2番と3番を握りしめ、新宿武蔵野館のロビーに入って行った。
上映時間が近づくと、昼間にもかかわらず、年齢高めの働き盛りが続々と集まってきた。
劇場の椅子に腰を下ろせば ♪ ビル〜のまち〜に ガオーッ!! ♪ が頭の中を駆け巡り、ボクたちはすっかり昭和のよいこにタイムスリップだ。

ほんのちょっとしか昭和を知らない君たちのために、映画に出てくる大事な「昭和用語」をお勉強しませう。

1.復員兵・・・・戦時の体制にある軍隊を平時の態勢に復し、招集を解かれ外地から帰郷した兵士のこと。
太平洋戦争終結後10年経った東京では、まだ多くの復員兵の姿が見られた。

2.傷痍軍人・・・戦争で傷つきケガをした軍人。
上野や浅草、横浜などの繁華街や地方のお祭りなどには、腕や脚を失った兵隊さんが、施しを受ける箱を前に、道行く人に頭を下げ、アコーデオンやハーモニカを奏でていた。
その物悲しい曲が哀れで、子供心にも戦争の悲惨さが伝わってきた。
しかし、よいこはニセ傷痍軍人もいたことも知っていた。

3.お富さん・・・昭和29年、百万枚を超える大ヒットとなった「春日八郎」の代表作。
まさか「鉄人28号」の中で、こんなに歌われるとは予想外だった。その他「赤いランプの終列車」も流れたり、これが“よいこのアニメなのかかいっ ! ”と思わず突っ込みをいれたくなってしまう。
「お富さん」をフルコーラスで聞きたければ、「宇宙人ジョーンズ」が存分に歌ってくれるハズである。

4.巣鴨プリズン・・・現在その跡地にはサンシャイン60が建っているが、側にひっそりと、そこがかつて極東軍事裁判で裁かれた戦犯の収監所だったことを示す碑がある。
2004年のテレビアニメ版で、鉄人の宿敵「ブラックオックス」を操ったビッグファイア博士が、なぜか戦犯として収監されている。

5.同潤会アパート・・・内務省の外郭団体「財団法人同潤会」が、関東大震災の教訓をふまえて建設した近代的設備を備えた鉄筋コンクリート集合住宅。
映画では「共潤会アパート」と名を変え、重大な秘密を内包する建物として登場する。表参道ヒルズの地下にも、ひよっとしてすんごい秘密が隠されていたりして・・・。

6.伊福部昭・・・日本を代表する映画音楽の作曲家。重厚で荘厳、時におどろおどろしく、西洋音楽の常識を覆すような旋律は、耳に残る。
「ゴジラ」シリーズの他に、「地球防衛軍」「大魔神」「座頭市」等々、様々な映画音楽を手がけている。
「ゴジラ」を見たことがなくとも、音楽は聴いたことがあるという人も多いだろう。

7.鉄人28号・・・「鋼鉄人間28号」大日本帝國陸軍謹製「鉄人兵器第弐拾八號」の28というナンバーは、空襲で東京を火の海にした「B-29爆撃機」から命名され、落雷のような起動時のパフォーマンスは、フランケンシュタインの怪物が雷のパワーで命を吹き込まれたのを模している。ゆえに原作では、完全に兵器として造られた28号が暴走し、何もかも破壊しつくす恐怖と悪の権化として描かれ、少年探偵・金田正太郎に追いつめられて溶鉱炉に落ちて最後を向かえる。
「ゴジラ」と同じように、戦争が生み出した「巨大なものの恐怖」に、人間のわずかな「希望」が勝利する、「科学探偵まんが」で終わる、予定であった。
が、しかし、荒ぶるくろがねの魔神(マシン)を静め操り、悪にたち向かわせるのは、純粋な正義の心を持つ汚れなき少年探偵の手にした操縦機(リモコン)であると設定が変わったことで、「鉄人28号」は兵器から正義のヒーローへ昇華したのだ。
だからよい子はワクワクして ♪ てきーにわたすな だいじなリモコン ♪と歌ってしまうのである。 

なぜこのような前置きを長々と書いたかというと、「宇宙人ジョーンズ」から待ち合わせの電話がかかってきた時、その場にいた「ヨウコリン」が「どの映画を見るんですか ? 」と聞くので、
ヒント・・・オヤジ2人がルンルンしてテーマ曲を脳裏に浮かべ、できれば格子柄のジャケットに半ズボンとハイソックスはいて、ワクワクして劇場へ行きたい映画。
と言ったら、じぃっ〜〜〜と考えた末
「わかった ! 荻野目洋子だ ! 」
と、お答えになたので、ハラホロヒレハレ・・・・になってしまったのだ。
まあ、オヤジは「六本木純情派」だけどサ、

なんで、鉄人が、荻野目ちゃんに、なっちまうんじゃぁ〜っ !!


というわけで、戦争の傷跡を背負った28号と正太郎くんの活躍をご覧になる際は、ぜひ予備知識をもってのぞんで頂きたいと、かように思うのであります。

鉄人28号 白昼の残月
鉄人28号 白昼の残月 posted by (C)084-jan

もはや細々とネタバレを言いますまい。
ただ、桜の花びらがハラハラと散る「共潤会アパート」の庭で、幼い頃に生き別れた深ーい、深ーい事情のある母と息子が再会し、特攻隊から生きて帰ってきた息子に対して「お国のために散らずに、おめおめと生きて戻ってくるなんて」というところに伊福部昭の音楽が静かに入ると、ククククク・・・、ふと横目で見れば宇宙人が目頭をぬぐっているし、前後左右の同年輩も手が目元にいっているではないか。
かくいうオヤジも、熱いしずくが頬を伝っているのでありました。

深いアニメだなぁ。
実写では描けない、云えないことを、こんな風に見せるなんて。
きっと石原慎太郎なんかに見せたら、斜に構えて目をパチパチさせながら、「ま、アニメですからねぇ」なんて言いやがるんだろうな。
嘘つきめ、絶対投票してやらない。

ああ、しかしユルユルだ。
「宇宙人ジョーンズ」は「八代亜紀」で泣ける男だからいいけれど、オヤジはもう観念した。
こうなったら、宇宙人と蟒蛇オヤジで「涙腺ユルユルブラザーズ」を結成して、お涙頂戴の場所へ巡業でもするか。
泣きますよう。
たわいもなく泣いちゃいますよう。
ああ、困った・・・。
鉄人28号、見るべし。


16:03:20 | mogmas | | TrackBacks