June 24, 2007

夜明けの胡麻油男

  
梅雨の明けた沖縄・多良間島の浜辺で、香ばしい油のにおいがしたら、それは近くに「夜明けの胡麻油男」がいるにちがいない。
もし泡盛を飲過ぎずに朝4時頃起きられたら、浜に出てみるといい、きっと奇妙な行動をしている男に出くわすだろう。
見かけはすでに島人(シマンチュ)になっているだろうが、全身にサンオイルならぬ、胡麻油を塗りたくり、さらに耳の穴、鼻の穴、口の中へも胡麻油を注入し、マッサージしながら何やらつぶやいているのは「夜明けの胡麻油男」なのだ。
彼の使用する太白の胡麻油は100%純粋な天然物だから、耳や鼻に入れても大丈夫なのだという。

日本広しといえども、朝の4時に全身に胡麻油を塗りたくる男はそうそういないだろう。
何故彼はそんなことをするのか。
「インド五千年の知恵なのだ」
と、酔っぱらう前の彼は宣う。
そう、彼はまるでジキルとハイドのように、飲めばとことん記憶をなくすまでいってしまうのである。
それでも、どんなに飲んで記憶をなくしても、朝4時の胡麻油行は忘れない。
半信半疑だったが、つい先日それがまぎれもない事実だということが、大勢の前で立証されてしまった。
恐るべし、アーユルベータの力。

そんなことをしているせいかどうか、彼の肌はつるつるだし、見かけも同年輩と比べたらたしかに若い。
ただ、彼の家の浴室の配管は、流し落とした胡麻油でデロデロになっていることだろう。
琉球の髪の長い熱帯魚は寄ってくるのかもしれないが、依然として「ひとりもん」なのだ。

「夜明けの胡麻油男」の噂は、狭い島の中ではすぐに広まってしまうだろう。
だがまもなく、おじいやおばあに別れを惜しまれつつ、胡麻油焼けした島の行商人になって、彼は戻ってくるのだ。
そして、あらたな泡盛の夜がやってくる。

15:55:20 | mogmas | | TrackBacks