September 07, 2007

ビニール傘の受難

  
グワラガッシヤーン ! と近所の店の看板が倒れた音が響く。
裏口のドアがバッターン ! と閉まる。
雨が吹き込んでくるので、テイクアウトの窓を閉めた。
こんな夜にテイクアウトに来てくれる奇特な人がいるとも思えない。

耳と目で楽しませてくれた、ネオンの海にご出勤されるらしいオネエサンたちも、ひとしきり飲み食いしてお帰りになった。
この雨風の中、人一倍布切れの少ない衣装でビニール傘をさして。
ご苦労様です。

合羽を着せたカネゴンが、「オヤジ、もう閉めちゃえよ」と言わんばかりの恨めしげな目玉で見上げた。
10時に店を早仕舞いした。

もの凄い突風がマンションの下を吹き抜け、傘など何の意味もない。
台風特有の雨は、まばらに強く弱く地面を濡らしてゆく。
不謹慎と思われるが、台風は結構好きだ。
刺すような雨に打たれるのも、風に煽られるのも、なんだか心地よく、自然に顔がニヤニヤしてしまう。
実害のあった方には申し訳ないが、子供の時からウキウキとしてしまうのはなぜだろう。
「相米慎二」監督の「台風クラブ」を思い出す。

店から駅までの道すがらに、木っ端みじんに破壊されたビニール傘が捨てられているのは毎年のことだが、今年はちょっと数が多い。
その数11本。
西口から東口への通路は、風洞実験のようなジェットストリームが吹きつけてきて、行く手を阻むほどだ。
駅前のコンビニのゴミ箱に、壊れたビニール傘が2本捩じ込まれている。
自宅へ帰るまでに、じつに13本のビニール傘が捨てられていた。
西と東で合わせて、なんと24本もの哀れな、ビニール傘が使い捨てられていたのだ。
もっと詳細に目をこらせば、おそらくその倍近い数のビニール傘がその生涯を終えていたことだろう。

携帯やパソコンや、その他多くのものが数十年前とは比較にならないほどの進化をとげているというのに、哀れな傘ちゃんは、植木等が「ナンデアル、アイデアル」とCMをしていた頃とほとんど形態を変えずに、台風に対する何の措置もなされずに、安かろう悪かろうで、使い捨ての憂き目に甘んじていた。
だが人の営みなんて、強い風の一吹きで簡単に瓦解してしまうものだ。
どんなにテクノロジーが進歩したって、自然の猛威にはなす術もない。
ビニール傘の柔い骨みたいに、人の築いた愚かな企みは、風神様の咳払いひとつでこなごなにされてしまう。
自然をコントロールしようなんざ、しょせん人間の思い上がりだ。
ま、こんな時は、為すがままに、流れに逆らわず、首を引っ込め、手足を縮め、天の神様の怒りがおさまるまで、気長にのんびり、成り行きを見守ることですな。

傘が何の役にも立たない夜道を歩きながら、オヤジは傘ちゃんの冥福を祈ったのであった。

10:31:00 | mogmas | | TrackBacks