過去ログ倉庫

カメ男になる

店の外壁が“粋な黒屏”に塗られ、店内にも塗りが入った。
電気屋さんはケーブルを結線しまくり、エアコン屋さんは繋ぎ込みと室外機の設置をしている。
大工さんは細かい部分の作り込みに追われている。

今までとガラリと趣を変えたモグランポの完成した店内・外と、メニューなどの写真をプロのカメラマンにきちんと撮ってもらおうと、あらかじめ予算を組んでいたのだが、どうも融通が利いてうまいカメラマンがみつからない。

10年前にオープンしたとき写真を撮ってもらったカメラマンは、とってもヘタクソで使える写真がほとんどなく、金をドブに捨てたようなものだった。
以前雑誌の取材で来た女性のカメラマンはどうだうと、名刺を探したが見つからず、ほとほと困って、昔から知っている近所のカメラ屋のおやじさんに相談した。

「そんなら自分で撮ればいいじゃない」
開口一番そう言われたが、仙台へ帰った「バーバーくん」のデジカメにも劣る画素数のデジカメと、ド老眼の四つ目オヤジの腕前では、とてもいい写真なんか撮れそうもない。
「今はねぇ、プロのカメラマンだってデジカメだし、そんなに画素数がどうのなんて気にしなくたって平気だよ」
しかし、センスがなければいい写真は無理だろう。
「何枚だって気のすむまで撮ればいいじゃない。プロにたのんだらなんでもお金だよ。それで気に入らなかったら困っちゃうでしょう」
なるほどその通り。
「試しに貸してやるから、一眼レフで撮ってみな」
おやじさんから手ほどきを受けて、キャノンのEOSで適当に撮ってみた。
ISO感度などを変えながら、いろんなものを撮影して、液晶モニターで確認してみる。
「な、けっこうきれいに撮れるだろ。これなんかちょっと前のヤツだから、画素数は600万程度だよ。でもこれで充分でしょ、何百枚だって撮れるんだから。自分で撮った方が絶対いいって」
なるほど、なるほど、実にその通り。
だが、コンパクトデジカメと一眼レフではその差は歴然だ。
「予算みてるんなら買っちゃえば。ボディだけ買えば、レンズの余ってるヤツあげるよ」

グラグラ〜ッと心が動く。
おやじさんは、なにも自分の店で買えって言っているわけじゃない。
商売っ気抜きで、ヨドバシカメラあたりで安いの見つくろえばと言ってくれているのである。
あああああ〜っ、憧れのデジタル一眼レフ。
予定していた予算内で買えないことはない。
だがしかし、お手軽で済ませていたので、そっちの方の知識はほとんどない。
キャノンのEOS Kissぐらいしか思いつかない。

「検討します・・・」
と、カメラ屋を後にし、すぐさま本屋へ直行。
「ビギナー向けから中上級モデルまで全網羅」とうたい文句があったので、「デジタル一眼レフFan」なる雑誌を買う。
それからの数日、もうすっかりカメラを買うことで心は決まったように、本とカタログと実物を手に取り、俄に一眼レフのお勉強に明け暮れた。
同等クラスの機種のスペックを表に書いて比較検討、その結果数機種にしぼられたものを、ヨドバシカメラでいじりまくり、連写しまくり、相性を確かめた。
かあちゃんに了解をとり、清水の舞台から飛び降りるような気持ちで、ついにデジタル一眼レフを買った。

まあ、何百万もするプロ用のカメラでも、ライカやコンタックスでもないから、それほど力むこともないのだが、一眼レフを所有するのは20年ぶりぐらいだったので、いささか緊張したのだ。
キムタクがいくら「カッケ〜」と言っても、やっぱりNikonのD80はお高く、売場でもお高くとまっている感じだったからこれは対象外。
キャノンとオリンパスは最後まで迷ったけれど、やはりEOS 40Dもお高く、それを持たなくたってすでにケン・ワタナベだし、ヨドバシカメラの店員の一言でオリンパスは戦線から消えた。
その昔愛用していたのは「PENTAX SP」だったので、少し愛着があるのと、ファインダーが見やすいことと、シャッター音などが好みに合うことなどから、他の機種を退けて選ばれたのは「PENTAX K10D」というカメラ。

「やっぱいいわPENTAX。カッケ〜」

「バーバーくん」が800万画素のソニーをお上りさんのように首からさげて、ニヤニヤしながらなでていた気持ちがよくわかる。
しかしオヤジのK10Dは1020万画素で、世界3大カメラ賞を受賞したという実力の持ち主。
「バーバーくん」のが「カメ男」なら、オヤジのは「スーパーカメ男」なのだ。

いやぁ、最初に買ったカシオのデジカメ「QV-10」が35万画素だったことを考えると、なんという進歩。
ド老眼の四つ目に一眼レフが加わり、五つ目になったぜぃ、バンザーイ。
これでガシガシ店の写真を撮りまくるのだ。
うっしっし、激写、激写の毎日だ。
そうだ、まず慣れるために、冬でも汗かいて、鼻息をフガフガいわせているオタクに交じって、秋葉原のメイドでも撮りまくるかぁ。
「ねっ、スーパーカメ男くん ! 」

あ、目的が違いますね、もくてきが・・・・。