January 23, 2008

全裸の女帝

  
正月明けてから、全然眠れないのである。
たまにウトウトッとしても、すぐに眠気が取れて、それからあーでもない、こーでもないと考え始めたら最後、もう眠れないのだ。
店のことやら、いろんなことが頭の中に渦巻き、手足に汗をかいて、いてもたってもいられずに起きてしまう。

そのうち眠くなるだろうと、それから本を読み始めたり、「林檎」の前に座って仕事をしてみるものの、ますます目が冴えてしまって、結局一睡もできずに朝を迎えてしまうことが度々。
酒を飲んでも同じだ。
いくら飲んでもちっともテンションが下がらず、相手もなしに飲んでいるとそのうち飽きてしまう。
こんなとき便利な男「「バーバーくん」でもいれば呼び出して、こっちがダメダメちゃんになるまで飲めるのに・・・。

今夜は眠ろう。
グイッと大量のナイトキッヤップを引っかけて、今日を強制終了しようと、ビールから初めて、日本酒、芋焼酎と次々とボトルを空にして、ようやく午前様にアクビが出たので、このタイミングを逃さず歯を磨き、一応枕元にスタンドと少々お堅い本を用意して、布団に潜り込んだ。
いい感じだ。
トロトロと眠りの使いがやってきて、本の文字がぼやける、本を持つ手がガクンと萎える。
スタンドなんて打っちゃっておけ、本に栞なんて挿まなくたっていい、寝ろ !!

寝た。
何度も夢を見た。
一番最後の朝方の夢だけが強烈に記憶に残った。
というか、あまりの不条理さにそれで起きてしまったのだ。
以下は夢の話である。
ほんとうに夢だけの話なのである、念のため。

コートのいらない夜だった。
どこで飲んだのかはわからないが、駅の方からご機嫌ちゃんの千鳥足でオヤジがやってくる。
商店街はがらんとして、雨上がりの水たまりがそこかしこにある。
その水たまりにわざとビチャビチャと入りながら、鼻歌を歌っている。
連れは何人かいるようだ。
大声でバカ話をしながら、肉屋さんの前の路地を曲がろうとして立ち止まった。
路地の中程の空中に、モヤモヤと何かが渦巻いている。
それはハエか、カか、アブかハチか、とにかく羽音をたててとぐろを巻き、黒い塊のように蠢いている。

「ようし、しょうがねぇ ! 」
と、たぶん言ったのだと思う。
靴を脱いで、そのモヤモヤと蠢くものに投げつけた。
そして服を脱ぎ、下着も脱いで素っ裸になり、ひとまとめにして手近な家の塀の上に置いた。
そして、唸りをあげて飛んでいる“何か”に向かって、全力疾走で飛び込み、突破した。
だが、黒く蠢いて飛んでいる“何か”は、パッと2つに割れて道を開けただけで、オヤジを追いかけもせず、怒った様子もなく、再び同じ空中で黒々とまとまった。

「ヤッホー ! 」
と、たぶん言ったのだと思う。
路地の入口から手を振ってお出ましになったのは、蟒蛇の女帝「Cちゃん」であった。
彼女と飲んでいたのか、それともたまたま通りがかったのか、それは不明だ。
だがオヤジと同じテンションで、「ウヒョッ」とか「アピョ〜ン」とか、いかにも絶好調のときの女帝が口走りそうな擬音を発し、ニコニコと手を振るのである。

黒く蠢いている“何か”を、彼女は全然気にする様子もなく、まったく躊躇いもせず、服を脱いで全裸になってしまった。
「いきまーす」
と、たぶん言ったのだと思う。
スキップするように走ってきた女帝は、黒い塊に向かって、なんとヘッドスライディングを敢行したのである。
そしてそのまま地面の水たまりに突っ込んだ。

そのときオヤジはハッとして、脱いだ服を塀の上に置き忘れたことに気がついた。
「キャハッ」
と、たぶん言ったのだと思う。
全裸の女帝は泥水を滴らせてご満悦。
オヤジはもう一度黒く蠢いている“何か”を突破して服を取ると、昔の人が川を渡るかのように頭の上に服を乗せ、再び“何か”を突破して女帝と並んだ。

深夜の路地裏で、若くない男女が全裸で、一方は頭の上に脱いだ服をターバンのように乗せ、もう一方は全身から泥水を滴らせて、ハイテンションでカラカラ笑っている図を想像してみてほしい。
なんと、おぞましい・・・。

蟒蛇の女帝「Cちゃん」も、自分の服が路地の入口に脱ぎ捨てられていることに気付き、再びスキップまじりに黒い“何か”に突進、またもやヘッドスライディングで水たまりへダイブ !
「キャホー」
と、たぶん言ったのだと思う。
泥水の全裸で激しく手を振るのであった。


気持ちのわる〜い、うなされながらのお目覚めでありました。
フロイト博士の解釈によりますと、すべて性の妄想、欲求不満のように片づけられてしまうでしょうが、まちがってもそんなことはございません。
いくら店や税務署やら、政治や原油の件で、頭がグチャグチャのヘロヘロで怒り狂っていたとしても、あなた、まさか女帝に対して邪な妄想を抱くなんてことは、これっぽっちもありませんですよ。
そんなことがあれば、ほれ、こうして公の場にこんなことを晒すわけはないでしょうが。

これを見た女帝がなんていうか、考えただけでも恐ろしい・・・。
「あんたさぁ、アタシに喧嘩売ってんの ? 」
だが、女帝の言いそうなセリフを先回りして書いてしまうという技を、長い間の修行の日々で身に付けた。
まあ、そういうことで、ひとつ穏便に、どうか、ひとつ・・・。

01:45:50 | mogmas | | TrackBacks