January 09, 2008

さらば「バーバーくん」 !!


モグランポ10年の歴史の中で、彼ほど「おだつもっこ(調子コキ)」で愛された馬鹿野郎な昭和の男はいなかった。

話をするようになってから、親しくなるのにはそれほど時間はかからなかったが、約3年半ぐらいの間に、今後の彼の生き方の指針にかかわるような出会いがあったり、時にはモグの一員として店を手伝ってくれたり、彼の周りではつねに笑いと酒とネタが満ちていた。

厨房の中にはオヤジ専用のカレンダーがあり、よく来てくださるお客様の名前がわからない場合はニックネームをつけさせていただいてるのだが、日曜日や月曜日の来店が多かった彼の仕事を推測して「きっと床屋さんだよ」とかあちゃんと話していたところから「「バーバーくん」という呼び名になったのだ。

まさにそれは正しかったわけで、その頃床屋難民だったオヤジは喜んで彼に頭を刈ってもらい、かあちゃんや「ヒトリモン」先生、「auちゃん」パパや「ジョニーさん」も彼の手にかかり、いろんな「ヨウコリン」はそろってキノコ頭かクレラップちゃんに刈られ、まあ彼の仕事の腕は確かだということで信頼したのだった。

その彼がカットの本場イギリスへ渡り、さらに修行を積んで悪魔の理髪師「スウィーニー・トッド」として凱旋帰国・・・・・あ、違った。
「パツ金のネェーちゃんをやっつけに行くだけですよ、ガッハッハッ」
というのが彼の本音かもしれないが、スコットランドの「ジョニーさん」から会話のレッスンを重ね、現地の状況やアドバイスも受け、着々と渡英の準備をしていたようだ。

唯一心配なのは、彼は日本語も礼儀作法もちゃんと理解していない「バーバー星人」だということだ。
「北海道の大雪山では初冠雪があった」
というニュースを彼が読むと、
「北海道のオオユキヤマではハツカンムリユキだべっちゃ」
とほざくし、汗っかきですぐ寝ている布団をはいでしまうので、夜中に布団をかけてやると、オナラで返事をするような宇宙人なのだ。
ワタシは反省期生きてきて、寝っ屁で返事をされたことは始めてだった。

「んだっちゃぁ、ほんにほでなすだぁ、コイツは。みなさんにばんがり迷惑かけてさぁ、やっと更生させてもらってよかったがす。仙台にいたらコイツなんか犯罪者だっぺ。腕に三本刺青入れられて島送りだぁ。ガッハッハッ」

注: 「そうですね。本当にろくでなしですこの男は。皆さんに思いっきり迷惑をおかけして、ようやく更生させて頂き感謝しています。仙台にいればこの男は犯罪者になっていたでしょう。腕に重罪人の印を入れられて八丈島へ島流しになっていたに違いありません。ハッハッハッ」

上記のようなネイティブな宮城弁で、自分の息子を笑い飛ばす「帝王」ご夫妻からご招待を受けて、5日の夜に、東京での「バーバーくん」との最後の晩餐に出席した。
オヤジとかあちゃん、「ヒトリモン」先生に居候の「写メ子」までご相伴にあずかり、一杯入った「帝王」は上機嫌で、「バーバーくん」誕生秘話を語るのであった。


【「バーバーくん」誕生秘話 或いは「バーバーくん」宇宙人説】

1978年(昭和53年)6月12日17時14分44秒、M7.4の地震が発生した。
日本海溝の大陸プレート側を震源とする地震で、過去に何度も繰り返し発生している。
いわゆる「宮城県沖地震」である。
当時人口およそ65万人の大都市・仙台が経験した、初めての都市型地震災害で、家屋倒壊被害が甚大であったため、この地震以降の建物は1981年に改正建築基準法が施行され、耐震強化などがなされた。
1995年の阪神・淡路大震災発生まで都市が経験した地震災害としては最も甚大なものであった。

「おれはそん時、山さ隠ってただ・・・・」
遠い目をして「帝王」が呟いた。

宮城県と秋田県、さらに山形県の県境に近く、「鬼首峠」からさらに山奥へ分け入ったところに、地図にはのっていない集落がある。
ベテランのマタギか古寺の住職ぐらいしかその存在を知らない幻の村、誰がつけたかその名を「へっこり村」と呼ぶ。
30代の「帝王」は猟銃とゴルフクラブを担ぎ、道なき道を彷徨いこの村に辿り着いたのだった。

「おれはゴルフがうめぐなりてがったのさぁ。いづの日かゴルフの聖地せんと・あんどりゅーすでプレイしてみだくでさぁ、そんでこの山さ隠って修行しでだのさぁ」
「へっこり村」は知る人ぞ知る山岳ゴルフ発祥の地といわれ、かつて「ジャック・ニクラス」もこの地を目指したが、吹雪に阻まれついにこの村を発見できずに断念したという経緯がある。

「帝王」は炭焼き小屋にこもり、飯を食い、ボールを打ち、鹿を撃ち、また飯を食い、7日目のこ夕方、すなわち6月12日の17時14分、薄闇の西の空から轟音とともに落ちてくる火の玉を目撃した。
と同時に大地をズンと揺るがす不気味な震動に見舞われ、とっさに手に取った猟銃を構えながら火の玉の落下地点へ走った。
木々をなぎ倒し山の斜面にめり込んだ飛来物は、サザエの殻のような形状をした犬小屋ほどの大きさで、まだ表面がブスブスといぶっていたが、平たい底面のフタが外れ内部が見えていた。
猟銃で狙いをつけながらそっと中をのぞいた「帝王」は、フワフワしたおがくずのようなものの上で蠢いている異様な生物を発見した。

「おら、ちょべっとたまげたけんども、よっぐ見たらなんだべこいず、めちゃこぐてめんこい感じでさぁ、そっからかかえで小屋さ戻ったのさ」

江戸時代の書物の中に、その時「帝王」が持ち帰ったのと同じ種類の生き物の絵がある。

画像の表示落ちてきた奇獣「雷獣」
寛政8年(1796)6月15日の大雷の夜、肥後国熊本に落ちてきたという。
毛の長さは3寸五分(約11センチ)で黒かったと記されている。

その獣が長じてどうなったかまではその書物には記されていないが、「帝王」はそれをひっそりと自宅に持ち帰り、戸惑う「クリスチャン(帝王の奥様)」を説得して飼うことにしたのだたった。
そして不思議なことにしばらくすると、四肢に生えていたハサミ状のものは抜け落ち、犬のような外見に変化した。

画像の表示生き物は「茶々丸」と名付けられた。

犬のような外見の宇宙生物は、やがて人の言葉を話し始め、屁もするようになった。

「おがっつぁん、めし!!」「おらいのおどっつぁん、さげのみでやんだぐなる」「はらくっちくてもうくえねー」「あーはらいでー、げりぴっぴだ」「もぐけろ(タバコくれ)」「おだずなよ!!(ざけんなよ)」

「うるせっこのっ ! しずがにしろっこのっ ! 」
さすがの「帝王」もこう怒鳴るほどよくしゃべるのである。
しゃべり出すとこんどは全身の毛が抜け落ちて、やがて人間の少年に変身した。

「帝王」夫妻はますますこの「やがましぃ」生き物を大切に育て、「帝王」の名を一字とって「敏感な人」の意味をもつ名をつけたのだが、思春期・反抗期を人並みに向かえ、酒もタバコも女も「ぺろんこ(タダでうまいことやっちゃう)」しちゃうような、

画像の表示♪ 盗んだバイクで夜を行く ♪ ような「ほでなす」に成長してしまったのであった。

このままではやがて人類に仇なす宇宙生物になってしまうことを案じ、「帝王」はモロボシダンのような気持ちで、彼を寺の木に括り付け、座禅を組ませ、住職の説法をイヤというほど聞かせ、暗黒のフォースから彼を抜け出させたのである。

そうして「敏感な人」は立ち直り、正業につくため学校に通うのだが、選んだ仕事がハサミを使う「理髪師」とわかり、最初に出会ったときの姿を思い出し、「帝王」はまざまざと因果を感じたのであった。
それに「敏感な人」は海老・蟹などの甲殻類アレルギーでもあり、やはり宇宙生物でも同形態の生物は苦手なのだと、今さらながらに思ったのである。
しかし何はともあれ、真っ当な仕事に就くのは喜ばしいことだ。

理容専門学校で、彼の「おだつもっこ」はますます磨きがかかり、自信もつくが、
「こいなもぜーとこでは、もでねーな(こんなダサイ土地ではもてないな)」という考えに至り、
「やっぱし、東京さいぐしかなかっぺさ」
となったのである。

「そんなごどあんめっちゃ、あですっぽなごとかだってんでねー(適当なこと言うんじゃない)って思ってるんだべ ? だども全部ほんどのこどだ。犬でも長げぇこと飼ってりゃ飼い主に似てくるっぺ。宇宙人だっておんなじだぁ。けんど、信じる信じねはあんたらのかってだっぺ。ガッ、ハッ、ハッ、ハッ !! 」


やはり「「バーバーくん」は宇宙人だったのだ。
またしてもオヤジの推測はあたったのである。
つまり彼は、「こいなもぜー国では、もでねーな。やっぱし、パツ金ねーちゃんのいるロンドンさいぐしかなかっぺさ」と考えたのだろう。
その証拠に昨年、彼が地球へ来て29年目にして初めて、800万画素のデジカメを購入し、悦にいっている姿は恐ろしいものだったのを記憶している。

画像の表示しばらくカメ男と名乗っていたバーバー星人。

しかしこの宇宙人のおかげで楽しかった。
英国へ行ったら、またどんな変身をするのか見物だ。
彼のことだから、英国人ともきっとうまくやるに違いない。
まあ、遠い宇宙へ帰るわけじゃなし、また帰ったとしても、ウルトラマンやセブンが再び戻ってきたように、「バーバーくん」もいつの日にか元気な顔でモグランポのカウンターを訪ねてくれることと思う。

その日まで、さらば「バーバーくん」 !!


17:55:49 | mogmas | | TrackBacks