June 12, 2008

Nightmare

  
第一幕。

川越街道を疾走していた。

でかいトラックがびゅんびゅん走る脇を、脇目も振らずに全力疾走だ。
汗が吹き飛ぶほどの勢いで、サドルから尻を浮かせ、ドロップハンドルの下を握りしめ、必死でペダルをこいでいた。

信号待ちを間一髪で逃れ、ブレーキをかけることなく交差点を突っ切った。
さっきから同じトラックと並走している。
運転手が窓越しに、ちらっとこちらを見ているのがわかった。
その視界を遮るように、蕎麦屋の出前とおぼしきカブが割って入った。
今度はこちらがバイクの出前持ちを横目にとらえ、闘志満々の気魄をおくる。

くわえ煙草の出前持ちは、そんなことには一切おかまいなしに、ぐいっとバイクを加速させてトップに躍り出る。
つられたようにトラックが咆哮し、煽るようにバイクを追従する。

たちまち自転車との距離はひらき、積み荷の重さがのしかかってきた。
積み荷はさも自分が自転車をこいでいるかのように、荒い息をオヤジの耳元に吹きかけ、生暖かい体を背中に押し付けた。
とても気色が悪かった。
彼がどうやって自転車とオヤジにのしかかっているかなんて、このさい想像したくなかった。
とにかく積み荷の男=「横浜のふとっちょくん」は、オヤジの肩に両手を置き、上半身をべったり背中に押し付けて、川越街道を朝霞方面にひた走る自転車に同乗しているのだった。

前方では出前持ちのカブとトラックが、赤信号に引っかかっていた。
ここぞとばかりにさらに前傾姿勢になって、ギアをローにぶち込んでペダルを踏み込む。
母親が幼子をおんぶするような格好で、「横浜のふとっちょくん」と一体化したオヤジの自転車が飛ばす。
トラックを追い越し、出前持ちを抜きさって先頭に返り咲いた自転車は、商店街に入り込んだ。

東上線の大山商店街のあたりだろうか、道路の両脇に様々な商店が店を広げている。
どこかのスーパーか果物屋の店頭からこぼれ落ちた色鮮やかなオレンジがひとつ、自転車の行く手に転がり出た。
とっさにブレーキをかけ、タイヤの焼けるイヤな臭いとかん高い音とともに、自転車はスピンし、背中に重くのしかかっていた呪縛のような「横浜のふとっちょくん」の生暖かい体温が消えた。

片足を地面につき顔を上げると、そこには何事もなかったかのようにオレンジにかぶりついた、「横浜のふとっちょくん」がニッと笑って立っていた。
傍らを、バイクの出前持ちとトラックが追い越して行く。

突然、自転車を駆ることに興味を失って、ポケットから取り出した携帯電話をカメラモードにして、鋳物工場と思われる古い建物にシャッターを切った。
オレンジに食らいついた「横浜のふとっちょくん」が倒れた自転車を起こし、手を振って去ってゆく。

とっても、あと味悪りぃぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜〜っっっっっ・・・・・・・・・・・・


第二幕。

雪の荒川だ。
土手と河原の高低差がなくなるほど雪が積もっている。
ずぼずぼと長靴を雪の中に沈み込ませて、土手の最高部に上がり河原を眺めた。
札幌の雪祭りのような、様々な雪の造形が河原を埋め尽くしている。
なかでも圧巻は、巨大な本物と見紛うほどの出来映えの姫路城だった。
まだ完成していないようで、迷彩服の自衛隊員がスコップを手に、あるいは重機で、雪の石垣を築いている。

陽の光を受けまぶしく輝く白亜の城は、まさに白鷺城というに相応しい見事な出来映えだった。
感心しながらも、寒さに震えて歯がガチガチと音をたてる。

次の瞬間、旅館の玄関に立ち、足踏みして雪を落していた。
部屋に戻ると誰もおらず、荷物は口を開け適当にころがっているばかり。
浴衣に着替えて風呂に向かった。

温泉につかって手足を伸ばすと、窓越しに河原の姫路城が見えた。
さっきより大きく視界に映る。
窓を開け放ち、何もかも白い表の景色を眺めた。
いつの間にか雪が降り出していた。
手を伸ばし、雪を手の平に受けようとした。
だが、手は窓の外に出なかった。
よくよく目を凝らすと、窓には白い鉄格子が嵌まっていて、手の平すら出す隙間もないのだった。

「だろ」

背後で誰かの諦めの声がした。
仕方がないので顎まで湯につかり、姫路城の天守閣を睨みつけた。

さらに、あと味悪りぃぃぃぃぃぃ〜〜〜〜〜〜っっっっっ・・・・・・・・・・・・


3日前ぐらいから眠気が戻ってきた。
相変わらず2、3時間の浅い眠りの連続だが、たくさんの夢を見たようだ。
ほとんど覚えていない中で、寝汗とともに記憶していた悪夢。
なにを暗示しているのだろうか ?
とてもすっきりしない。
今度から「横浜のふとっちょくん」のことは、「ナイトメアくん」と呼ぼう。





10:16:00 | mogmas | | TrackBacks