June 18, 2008

サイレントキラーに宣戦布告 !


逞しいマッチョな心臓くんは、見事に肥大して、素人目にも尋常ならざる状態だとわかった。

「いやぁ、すごいね。マラソンランナーの心臓だってこんなに大きくないよ。Qちゃんもびっくりだ」

レントゲン写真に現れたオヤジの心臓くんは、己の拳よりもひとまわり半ほどもあり、左の肺の下半分以上を占めている。
こんなの医学的な知識なんてなくても、誰が見たって異常だとわかるってもんだ。

何のかんのと屁理屈を言って、トンチンカンな素人考えで悪あがきの理論武装をしたところで、こんな証拠を突きつけられては反論の余地はない。
しかし一見元気な往生際の悪い患者は、犯罪者と同様にたちが悪い。
まだ、逃げられるんじゃないか、証拠を覆せるんじゃないかと、医者の揚げ足を取ろうと考えを巡らせる。

「こりゃ酒を飲んじゃ、命取りだよ」

しごく当たり前の忠告を医者がするのを、崖っぷちで聞き流し、判断は午後に受診する心臓の専門医にゆだね、続いて腹部エコーと採血、尿を採取された。

腹部エコーで腎臓に石が発見された。
2、3ミリで、まあ異常がないならこのままでも大丈夫らしいが、過去に経験した地獄の痛み、悶絶、脂汗、のたうち回る苦しみをイヤでも思い出し、さらに暗〜い気分に落される。

午後の受診は2時からなので、いったん家に戻って出直す事にした。
腹が減っては戦ができぬ、とばかりに卵かけご飯をかっ込む。
ちょうどテレビでドリームジャンボの抽選会の模様を中継していた。
この偶然はただの偶然か ?
病気も当たり、宝くじも当たる、なんてぇことを都合よく想像し、禁酒の宣告をまぎらわした。


「お酒は絶対やめてください」

キッパリとこちらを見て告げた心臓の専門医は、歳の頃は30代後半から40代のはじめ、メタルフレームの眼鏡がキラリと光るが、髪の毛はそろそろカットして手入れした方がもう少し知的に見えますよ、と苦し紛れに突っ込みたくなった。

「あなたの血は澱んだドブ川の用なものです。お酒を飲むと上っ面の水だけが流れて、ゴミやヘドロはそのまま堆積して流れをせき止めてしまいまうんです」

「あなたはもう、りっぱな病人ですよ」

「あなたの身体の中では、すでに死の四重奏が奏でられています」

医師の口から立て続けに、厳しくもストレートなお言葉が出る。

「死の四重奏=デッドリー・カルテット」、またの名をサイレントキラー。
「高血圧」、「高コレステロール血症(高脂血症)」、「肥満」、「糖尿病」の、虚血性疾患の4大因子、いわゆる「生活習慣病」と最近呼ばれているヤツが、オヤジの身体をかなり蝕んでいるのだそうな。

次に続く言葉は、言われる前からわかっている。

「このまま放置しておくと、確実に死に至ります」

出ました、死刑宣告。

「おう、おう、おう、ざけんじゃねぇよ ! そんなんでビビってらんねぇんだよ。こちとらアンタがオムツしてる頃から飲んでんだよ。病気ぐらいで酒やめっこねぇだろ ! 」

もしくは、

「すいませんけど、あとどれくらい飲んだらポックリいけますかね ? 」

という、まさに往生際の悪いセリフを脳裏によぎらせながらも、殊勝な顔でフムフムとうなづくのであった。

24時間つけた心電計のグラフで、昼の2時30分頃に数値が変動していることに着目した医師が首を捻った。
動脈硬化の検査と尿検査を追加オーダー、とにかくアルコール性の心筋症なのか、高血圧からくる心筋症なのか、または別の要因か、段階を踏んで検査しない事にはわからないとの事。

ほほう、わからないのに「酒」を悪者にするとはこれいかに。
心電計の2時30分は、ちょうど「ランボー最後の戦場」を観ていた頃だ。
オヤジ的にはイマイチだと思ったが、心臓くんは割と興奮していたようだ。
ごめんね、スタローンさん、身体は素直に「ジョン・ランボー」を指示していたようです。
でもお医者さんは見抜けなかったのね、へっへだ。

放っておくと確実に死ぬってのに、次の診察は2週間後であります。
血圧を下げたり、心臓の働きをよくして心不全の悪化を予防するが、めまいや、ふらつきを起こすこともあるという薬と、コレステロールと尿酸値を下げる薬が出た。
合わなければ服用をやめるという、人体実験みたいなたよりなさ。

まあ、こんな状態ですから、取りあえず2週間は酒はやめましょう。
それに加えて身体の改善には、食事による体重コントロールが絶対不可欠なのは先刻承知。
現在身長164.5センチで体重68キロだから、理想体重といわれる59キロまで10キロの減量をする。
極力薬には頼らず、自然治癒力を信じたいから、またまた本を買い込み読みあさっている。
自分にあった方法で、必ず復活してやる。
絶対に旨い酒を再び飲みたいから、本日をもって、サイレントキラーに宣戦布告す !!


この件は、飲食店のオヤジが書くブログではちょっと重いと思うので、そのうち別のブログサイトでこの聖戦の模様を綴ろうと考えている。
成功するか、失敗するか。
失敗したときにはすぐわかる。
モグランポが消滅し、オヤジがこの世からおさらばするからだ。

とにかく、この件はもうこのブログでは書かない。
次回からはまた、ノーテンキなお好みオヤジのネタをアップできるであろう。



23:39:26 | mogmas | | TrackBacks