July 10, 2008

トレッドミル

長い髪を後ろで結んだ若い娘に名前を呼ばれ、なんとなくウキウキして案内された病院の一室には、エアロバイクが5台とランニングマシンが2台、それらを取り囲むようにパソコンのディスプレイとオシロスコープなどの機器が置かれていた。

「上半身裸になってください」

黒縁眼鏡にオカッパ頭の娘が、恥ずかしげもなく言った。
体重64キロ台に突入した体年齢47歳のオヤジは、惜しげもなくシャツを脱ぎ捨て、裸体を晒した。

別の娘に足のサイズを聞かれ、用意された上履きに履き替えた。
こんな靴を履くのは中学生以来だ。
なんとなくときめいちゃう。

若い娘3人がかりで体の前と後ろをアルコールの綿で拭かれ、スースーする胸の周りにペタペタ吸盤がつけられて、電極が接続された。
左腕には血圧を計るカフが巻かれ、右の手首と人差し指にも脈拍を計る装置がつけられた。

そのまま診療台に仰向けになると、「ボッ、ボッ」という規則正しい電子音が聞こえてきて、ディスプレイに数値がデジタル表示される。

何度か血圧などを測定された後、前方と左手に木の手すりが取り付けられたランニングマシン=トレッドミルに、体の前後から線を垂らしたまま乗っかった。
カフが巻かれた左手と右手をまっすぐ伸ばして手すりにつかまり、ベルトの動きに合わせて「歩いて」くださいと説明を受け、いよいよトレッドミルが動き出した。

最初はゆっくりで余裕だったが、しだいに速度が上がりだすと、まるでカゴの中の小ネズミのようにせわしなく足を動かし、それとともに腕のカフが膨れ上がって血圧が測定される。

「あと20秒でもう少し速度が上がります」

ヘッドフォンマイクをつけた娘が抑揚のない声で告げる。
少ししてモーターが唸りをあげ、ベルトの回転が速くなる。
勢いで足が後方に流れないように、意識して踏み込みを速める。

「走らないで、歩いてください」

娘が冷たく言い放つ。
上履きがバタバタとやかましい音を立てて、呼吸が荒くなる。
カフが膨れ上がり、汗が背中に浮き上がる。
さらに速度が上がり、額に汗が浮かび頬を伝う。
もはや小走りに近い速度だが、またさらに速度が上がる。

「大丈夫ですか ? 辛かったら言ってください」

こうなったら意地だ。
音を上げるもんか。
脳裏に「ロッキー4」の、ソ連の殺人ボクサー「イワン・ドラコ」の練習風景が映る。
酸素吸入器こそつけていないものの、「ドラコ=ドルフ・ラングレン」の必死の形相が重なり、「Burning Heart」が流れ出す。
トレッドミルのモーターが焼き切れるまで歩き続けてやる !
これが死のロードになってもかまうもんか、ほんとうに心臓がBurningするまで歩いてやる !!

「はい、あと20秒で停まります」

あっさりと娘がそう言ったときには、汗びっしょりで隠しようもなく息が上がっていた。
何分歩いていたのか、けっこうへばっている。
診察台に腰をおろして電極と吸盤を外してもらい、熱いおしぼりで背中を拭いてもらった。(きっとこれはサービスだ)

「なにかスポーツをやってらっしゃるんですか ? 」

娘がさり気なく聞く。

「毎日がサバイバルスポーツさ・・・」なんてオバカなセリフを飲込んで、「いや、若い時だけね」と答えた。

これはトレーニングではなく、検査なのだ。
世に拗ねて威張り腐って肥大した、オヤジの心臓くんの状態を診るための負荷検査なのだ。
結果は2週間過ぎにわかる。
また「ヨウコ」先生から、キツいことを言われるに違いない。

ともあれ、オヤジの体力、とくに脚力が著しく落ちていることはこれで自覚した。
体の筋肉は上半身の倍も下半身に多く、そのうえ上半身よりもずっと早く老化が進むのだ。
足の筋肉を鍛えて静脈の血流をよくすれば、すなわち心臓くんにも良いわけで、今後は積極的に下半身のトレーニングをする必要がある。

で、そのまま病院を後にしてプールへ向かった。
しかし思ったより足が疲れていたようで、クロールが進まない。
後から泳いできたおじいちゃんに抜かれそうになり、必死で手足を動かし不様な泳法を披露してしまった。
ヒイヒイ言いながらなんとか1時間泳いだら、足がものすごく怠くなってしまった。
これでは「ヨウコリン」センセイとの水泳対決でも、後塵を拝すことにもなりかねない。

帰りに本屋へ寄って、DVD付の「基礎からマスター水泳」という本を買った。
しかし夜見るつもりでいたら、堪えようもなく眠くなって、10時頃寝てしまった。
アーメン・・・。






12:40:44 | mogmas | | TrackBacks