September 21, 2008

天然の源流

  
かあちゃんの郷里・天草の実家の玄関には、若かりしときのじいちゃんの写真が額に入れられて飾ってある。
そのスナップは、NHK朝のテレビ小説「藍より青く」に出演したときの記念の1枚だ。

じいちゃんはその頃観光馬車を引いていて、その仕事のそのままで何シーンかに映ったのだという。
かあちゃんが幼い時は、近くの海でパートナーのその馬に水浴びをさせたり、裸馬の背に揺られて散歩したりという思い出があるのだそうな。

やがて老衰で愛馬が動けなくなると、安楽死させ、すぐその後に業者が馬肉にするため引き取りにきたという。
桜肉の本場熊本ではあるが、じいちゃんは今もって馬肉はいっさい口にしないが、東京暮らしの方が長いかあちゃんは、馬との思い出を口にしながら肉も喰らうのだ。

そんな天草の実家には、納屋や馬小屋の跡はあってももう馬は飼っていない。

先日義兄の葬儀の跡、心身ともに疲れたばあちゃんがこう言った。

「きょうはもうきつかけん、センセのとこにはポニーにのっていくばい」

ポニー ?  医者へ行くのにポニーにのっていくのか。

「すまんけん、ちょっとポニーば呼んでくれんね」

ポニーを呼ぶ ?  どうやって ? おーい、ってか ? それとも、ハイヨー、シルバーッ! (すんません、オヤジたち世代にしか通じないかけ声だよね)なんて ?

どこか近所でポニーを飼っていて、老人たちは用事のあるときにポニーの背にまたがり、ポックリポックリ揺られて山を越えて町まで行くのだろうか ?
のどかな天草ならではの光景なのか ?

いやひょっとして、その辺を草を食みながら放し飼いになっているポニーに、昔とった杵柄ならぬ昔とった手綱をとって、颯爽とまたがって駆けて行くのだろうか ?
だとすると、60度ほど腰が曲がっているばあちゃんもなかなか侮れない強者といえまいか ?
よし、オヤジも一丁ホニーば取っ捕まえて、尻にむち打って疾駆しちゃるけん、見とりんしゃい。

なんて一瞬張り切りかけたら、かあちゃんがさらっと電話をかけてポニーを呼んだ。
すると間もなくポニーはやってきた。
べつに蹄の音も立てず、エンジンの音とともにやってきたのである。
それは天草ではよく見かける「産交ポニータクシー」であった。
なるほど、間違いなくポニーに揺られて行くのだ。

事情を知らなかったのはオヤジばかりなり。
我ここに「日本天然党」の源流を見たり !


先日TXに乗って秋葉原まで出たとき、かあちゃんが切符を買った。
その切符で秋葉原の改札を通ろうとして、ピンポーンと鳴ってゲートが閉まった。

「なに、秋葉原まで買ってないの ? 」

「だって浅草まで200円だから、240円ぐらいでいいと思ったんだけど・・・」

「おい、勝手に運賃を決めるな。おまえは国土交通省かい ! 」

ちなみに秋葉原までは北千住から280円です。
かあちゃんは、そんなに高いと思わなかったというのですが、推測で公共料金を決めるのはよしましょう。

ポニーの母にして、この娘あり。
「日本天然党」に栄光あれ !






14:12:21 | mogmas | | TrackBacks