October 07, 2005

シンデレラマンはカボチャの馬車でMSGへ行ったか?

朝から何も食べず、昼過ぎの劇場に入り、どなた様の頭にも邪魔されない席に着く。
グーグー鳴る腹の虫を、一杯のコーヒーで押さえつけ、いざ鑑賞。

空腹のせいか、やたらと食べ物のシーンが目につき、記憶される。
スリーンから時折放たれるボディブローに、最後まで耐えられるか。

【ダメージ1】
ガスも電気も止められる寸前のアパートで、早朝から働きに出る夫のために、妻はフライパンで粗末なパンケーキを焼く(う、うまそう・・・。やっぱパンケーキはアメリカのお好み焼だね)。
その音と匂いに目ざとく起きて来た幼い末娘にパパが言う。
『リッツで分厚いステーキをたくさん食べた夢を見た。だから今朝はお腹がいっぱいなんだ。かわりに食べてくれないか』
ひもじい子供たちのために、食事もとらず仕事に行く主人公。
このとき妻は、半分中身の入っている牛乳瓶に水道から水を足す。
このことはとても重要です。シンデレラマンが何のためにファイトをするかという、クライマックスのセリフにつながってくるので。

【ダメージ2】
港湾労働者としてやっとこさ職にありついた主人公は、知り合った男と近くの店に入る。
相手はビールを頼むが、自分は水でいいという主人公に、店のオヤジはイヤミを言う。
取りなすようにビールをおごってくれる相方。サーバーから注がれる生ビール(くわっ、うまそう。でもまてよ。この時代まだ“禁酒法”が施行されてたんじゃなかったっけ?)。
2人でジョッキを手に窓側の席に着き、ビールを飲む。

【ダメージ3】
やっとつかんだ試合当日。
両手にテープを巻いて準備万端と思いきや,主人公の腹がグ〜と鳴る。
実は何も食べていない。
そんな状態で15ラウンド戦うつもりかと、マネージャーが控え室を飛び出し,持って来たのが洗面器のような大きさのボウルに入った“ハッシュドビーフ”だ。
しかしスプーンがない。
再び控え室を出て探しにいくマネージャー。
しかし、もう我慢できない。
“ハッシュドビーフ”のボウルに鼻先を突っ込んで、犬食いをする主人公(間違いなく私もそうする。絶対このうまそうな“ハッシュドビーフ”を家でつくってやるぅ)。

【ダメージ4】
ビッグファイトが決まり、記者たちへのサービスをかねて、プロモーターが押さえてくれた高級レストランで食事をする主人公とマネージャー夫妻。
まだ少し残っている皿を引き上げようとするウェイターの手を制し,食事を続行する。
妻は家で待つ子供たちのために、手をつけなかったステーキをそっとナプキンに包む(それも食べたいっ。くれぇぇ)。
対戦するチャンピオンが、挑発のようによこしたシャンパンもお持ち帰りだ。

さあ、ここから先は言えません。
言えるのは、空腹を忘れさせるほどのクライマックスだということ。

厳しいトレーニングの積み重ねで、一気に運命の試合へなだれ込むという、一連のボクシング映画とは少し違います。
激せず、冷静さを失わず,市井の小市民として嵐が過ぎ去るのを耐えて忍ぶ主人公の姿に、静かな高揚感を持ちつつ、古い時代のトレーニングでつくられた肉体と、当時のファイティングスタイルで見せる試合に、映画の観客は当時のMSGの観客と一体化していくのです。

映画を見た後、少々お勉強をしたおかげで、「ミリオンダラー・ベイビー」のときもあった疑問“なぜアイルランドからの移民者にボクサーが多いのか”ということがわかりました。
それは、ジム・ブラドックがジョー・ルイスに敗れたのち,ジョー・ルイスがロッキー・マルシアーノにKOされた、という流れとも無関係ではないと思います。
そのあたりのことは、次のボクシング映画のときにでも書こうと思います。

ちなみに、マネージャー役のポール・ジアマッティがよいです。

やはりボクサーはハングリーでないといけません。

ぜひ、ご鑑賞の際にはペコペコに腹を空かしてどうぞ。

そうそう、シンデレラマンは、黒塗りの送迎車で試合会場へ運ばれて行きました。


Posted by mogmas at 13:06:00 | from category: 映画の引出し | TrackBacks
Comments
No comments yet
:

:

Trackbacks