November 07, 2005
雨の夜の怪奇-ルイジアナの甘いクチビル
その夜の雨は不規則に降り続けた。雷のドラムが轟くようなことはなかったが、栓を抜いたバスタブの水がいっせいに流れ出すように、突然大量の水が街にばらまかれる、そんなことが繰り返された。
その怪奇現象が発生したのは、夜の8時40分頃のこと。
一組のお客様がチェックアウトし、店の扉を開けた時だった。
それまで有線放送で流れていたキャロルの「ルイジアナ」が、最後の“甘いクチビルふるわせてぇ〜”とフェイドアウトし、次の曲に移るはずなのに、再び
“・・・イジアナ いつでぇも男をダメにする 甘いクチビルふるわせてぇ〜”
の最後の部分だけがかかり、消えた。
わずかな間の後、再びそのフレーズが繰り返される。
そんなことが延々30分。
雨が時折凄まじい勢いで降り注ぐ。
それっきり誰も来ない、閑古鳥が続いた。
ただそれだけなら有線側の機器のトラブルと、他のチャンネルに変えるのだが、オヤジにはキャロルの思い出があった。
もうしばらくこの状態に耐えることにして、延々繰り返されるラストのフレーズを鼻歌まじりに、明日の生地作りに取りかかった。
すると、約9年近く使い続けた愛用の「ホイッパー」の持ち手の部分が壊れた。
コイル状に巻かれた柄の針金が、ユルユルに解れている。
こんなことは始めてだ。
さらに、オヤジの腹の虫がキュ〜ッと啼いた。
耐えきれなくなったかあちゃんが、有線に苦情の電話を入れる。
が、休日のため留守電だ。
仕方なくチャンネルを変え、もう店を閉めるか、と諦めかけたとき、「天使」が現れた。
かつてモグランポでアルバイトをしてくれた、ユカちゃんである。
彼女がアルバイトの面接に、制服姿でおずおずと訪ねて来たのは、まだ17歳の女子高生だった。
一目見るなり、即採用。
ハキハキとして明るい彼女は、ご近所の花屋さんの自慢の娘。
それほど長い期間働いてくれたわけではないが、印象深い可愛い娘だった。
あれからもう7年。
成人式に振り袖を着て訪ねてくれたり、彼氏と一緒に食べに来てくれたりと、ことあるごとに顔を見せてくれて、オヤジにとっては娘のような存在。
それがもうすっかり大人の女性になって、お酒も結構いける口なのだ。
「朝まで飲もう会in北千住」では、“悪魔のあっくん”とオヤジに付き合い、堂々と渡り合うほどの素敵な女性になった。
可愛い娘のいるお父さんの心境で、“最後の砦”にも連れて行っちゃうのである。
こんな験の悪い夜は飲んじゃうしかないのだ。
Gちゃんお持たせの“悪魔の酒version-2”で乾杯。
うーん、旨い。
そろそろ有線はどうかいなと、チャンネルを戻してみると、なんと正常に復帰。
2時間半ほど続いた「ルイジアナ」の嵐も、不規則な雨も、天使の降臨で治まったのだ。
しかし、“悪魔の酒version-2”の誘惑に天使ユカちゃんは、甘いクチビルふるわせる「ルイジアナ」のようにほんのりいい感じになってしまったのである。
そんな看板娘のいる花屋さんで、100万本のバラを買おうという紳士はこちら「花ゆえ」まで。
13:10:31 |
mogmas |
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