July 01, 2007
カーチャンズブットビキャンプ
近頃は、誰も彼もが入隊願望があるらしく、しかし実際入隊したはいいが、すぐに不名誉な除隊をしたという話をよく耳にする。
アメリカや韓国などの徴兵制のある国ならいざ知らず、軍隊の厳しさも知らない婦女子が(ワシも知らんが)、たんに痩せたいという動機のみで入隊したいと殺到するなんて、これは右へ習えの政治屋の思う壷ではないかと危惧していたのだが、身近なところに墓穴を掘っている女がいた。
恐ろしいことにこの女は、夜中の12時を過ぎてから、無謀にも入隊した。
元はと言えば「サバニイ」がいけないのだ。
だいたい自ら「ふとっちょ」なんて自虐的に名乗る男のくせに、婦女子が飛びつくネタをちらつかせ、例のDVDを送ってくるものだから、寝た子も起きてしまうのだ。
そしてとうとう、何を血迷ったか午前0時に、我が家の物知らずの女は禁断のDVDをプレーヤーに入れてしまった。
彼女は昼間「カーブス」という女性専用フィットネスに目覚めてしまい、毎日のように通っていて自信を持ったのか、ハードな訓練をやり遂げられると勘違いしてしまったらしい。
軽快な音楽とともに始まった「ビリーズブートキャンプ」、ビリー隊長の速射砲のような叱咤激励とともに体を動かす新兵たちの動きを見よう見まねで、女はユラユラと体を揺する。
斜に構えて、ビリーではなくビールを飲みながらこの光景を見せつけられているオヤジだったが、ビリー隊長のしゃべりと動きには感心させられた。
激しい動きをしながら息も切らさず「Count it !」を連呼し、新兵どもを鍛えるスキンヘッドの鬼教官が、オヤジより年上だとは驚きだ。
さすが、金を稼ぐ仕組みを開発したヤンキーは若々しく見える。
ビールの勢いも手伝い、ビリー隊長のマネをし
「ヘコタレルな ! やり遂げろ ! Make it burn ! なんだその様は、足を揚げろ、腕を振れ、ワン・ツー、ワン・ツー、休まないで歩けー ! 」(お前は水前寺清子かっ ! )
画面のオネーさんたちは隊長の動きについていっているが、早くも息が上がった女は、ワンテンポ遅れながらヒイヒイ従っている。
「貴様 ! 盆踊りじゃないぞ ! 温泉の宴会芸じゃないぞ ! もっと3段腹を揺すれ ! 声を出せ ! ビリーバンドがないなら、オヤジバンドを貸すぞ ! Count it ! Count it ! 」
この有様をビリー隊長が見たら何と言うだろう。
集団でこんな動きをしていたら、ヘンな宗教に間違われてしまいそうだ。
ああ、もう疲れちゃった。
風呂でも入ってこよう。
20分後。
風呂から出て、そーっと戸の隙間から覗いて見ると、浜に打ち上げられたトドのように、床でもがいている女は、汗びっしょりの赤ら顔。
「こら、貴様ぁ ! ジタバタするなよ(シブガキ隊かっ ! )。腹筋を締めろ ! Count it ! もうそろそろいい加減にしろ ! 何時だと思ってる ! これ以上やったらホントに死ぬぞ ! 」
オヤジがこう言わなくても、女はすでに限界だった。
幽鬼のようにフラつきながら、風呂場に消えていったのだった。
そして明後日。
一晩遅れて筋肉痛がやってきた女=かあちゃんは、手足を上げるのもつらそうで、気分も最低だ。
それ見たことかというのは毎度のことなので、ただ一言「貴様は本日をもって除隊だ ! 」と告げた。
やはりかあちゃんには、世間の流行りごとはブートできないのだ。
前略 ビリー隊長 殿
あなたの訓練プログラムの優秀さ、手軽さは、拝見し充分理解しました。
これで多くの新兵が戦地で勇敢に闘えることでしょう。
しかしながら、家の中でも靴を脱がないあなたのお国のような、広く丈夫な住居なら、あなたのプログラムは有効に活用できるでしょうが、我が国の貧弱な住環境ではかなり無理があるように思えます。
家の中でリズミカルに歩いたり、コンバットキックするエクササイズは、日本家屋ではあまり適していません。
それに、銃後の守りに適しているニッポンのかあちゃんたちには、あなたのプログラムはハード過ぎるようです。
ビリー隊長の激励には感謝いたしますが、本日付けでかあちゃんをブートキャンプから除隊させていただきたく、お願い申し上げます。
なお、後方の支援部隊「油売り小隊」にて引き続き訓練を続けさせますので、その旨お伝え致します。
独立小隊「蟒蛇部隊」隊長084より
15:55:03 |
mogmas |
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