February 24, 2006

働くバーバーくん

カーステレオから流れていた「ファンキー・モンキー・ベイビー」の余韻にひたりながら、オレは愛車のエンジンを切った。
沈む夕日のような真っ赤なキャデラックのドアを開け、ピカピカに磨き上げたブーツを車の外に下ろした。
ドアを閉め、ボンネットに寄りかかる。
と、店のドアが開き、若者が走り出てくる。
「オーケー、はじめようか」
オレは若者に頷くと店に足を踏み入れた。
「ヘイ、今日の天気、ごの感じ、オーケー、そこんとこよろしく」
言うなり足を高々と組んでソファーに腰を下ろした。
トレードマークのタオルが肩にふわっとかけられる。
シャキシャキと鋏が軽快に鳴る。
眠りを誘われるその音に、オレは目を閉じた。
「モミアゲは、レッツゴージュンでいいですね」
なにっ!
オレは飛び起きた。
鏡の向こうにニヤニヤと笑うE-YAZAWAがいた。

自分の鼾が聞こえた気がして、ハッとして目を覚ました。
あまりの気持ちよさに眠ってしまったのだ。
ここは浅草の床屋さん。
しかし下町の浮世床を想像したらいけない。
雰囲気のいい美容室といった方がピッタリくる。

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現にオヤジ以外のお客さんは女性ばかりで、ちょっと気恥ずかしい感じだ。
「モミアゲはどうしますか?」
「バーバー」くんが言う。
「自然な感じで、レッツゴージュンだけはやめてね」
もうこうなりゃ、まな板の上の鯉だ。
全てを「バーバー」くんに委ねている。

熊本での結婚式の出席を来週に控え、このところ髪切り難民だったオヤジは、恥ずかしくないような頭にしてもらいたいと、「バーバー」くんを頼ったのだ。
希望は「永ちゃん」である。
そこんとこよろしく、なのだ。
ちゃんとした散髪は久しぶりなので、実に気持ちがいい。
仕事が丁寧である。
マッサージもうまい。
思わず声が出ちゃいます。
「バーバー」くんもゴッドハンドの持ち主だったとは、油断していた。
もしや、オヤジの頭に獣の数字「6、6、6」を発見したりしないだろうね。
酒を飲んでいないから大丈夫だとは思うが・・・。

うーん、お仕事モードの「パーパー」くんはなかなかやるな。
「フリッパー」くんも別人のようにキビキビしている。
倉本聰似の社長さんの教えがいいのだろうな。
出来上がった頭は、しばらくぶりにスッキリ爽やか。
“熊本へ行く頃には「永ちゃん」になっています”と「バーバー」くんは自信たっぷりで言う。
うーん、伸びる頃合いも計算してカットしたのか。
さすが、昔「オニハン」握ってブイブイいわせていただけのことはある。
もう「バーバー」くんの頭の引き出しには、オヤジの首から上の情報がしまわれているのだろう。
ああ、恥ずかしいぃぃ、あんなことやこんなことまで知られてしまった。
恐るべし、スタイリスト、シザー・ハンズ、カットマン、刈り魔王、下刈り半次郎・・・・。


10:19:00 | mogmas | | TrackBacks