February 09, 2006

バッカスの怒り

青白い雷とともに神は降臨した。
その姿は見るものによって様々に変わるが、獅子のたてがみのような髭をたなびかせ、牛の角を付けた帽子をかぶったバイキングのように今は見えた。
岩山を思わせる巨大な身体の内から響いてくる低く威厳に満ちた声は、膝が頽れるような畏怖を抱かせ、震えながら上目遣いに見ることが精一杯だった。

神は言った。
「愚かな人間よ、自ら蟒蛇などと名乗り、悪魔を標榜する傲慢さ。己の脆さも顧みぬ浅はかな振る舞いは、断じて見過ごすことはできん。その高慢な心根を挫き、肉の苦しみを与えることで、我らへの真摯な信仰を目覚めさせてやろう」
大地が揺れる。
胃の腑を振るわせる地鳴りが迫ってくる。
「さあ、ゆけ、愚鈍なオヤジよ。神の怒りを体現せよ!!」
その瞬間轟音とともに琥珀色の水柱が地面を突き破り、すぐさま奔流となって降り注ぎ、大量の白い泡にまみれながら麦酒の河を流されていく自分がいた。
溺れそうになりながらグビクビと麦酒を飲み、時にはそれが泡盛の味になり、ウイスキーの香りも混じり、むせながらどこまでも流れていく。
やがて流れは勢いを増し、渦を巻き始め、抗うこともできずに渦の中心に飲み込まれていく。
意識は急速に薄れ、やがて暗闇が支配した。

目覚めると胃が重苦しい。
前夜「バーバー」くん相手に、ヒマなのをいいことに新しく仕入れた「山原くいな」を半分ほど空けた。
食べたものと言えば、南京豆、家に帰ってからポトフとチーズ。
二日酔いする量でもなし、もたれるほどの食事ではない。
だが、なんだか四肢に力が入らず、午前中をまったりと過ごし、昼飯を食べたい気分ではなかったが、片付かないからとご飯茶碗一杯、親子丼の具をぶっかけて食べた。
予約のお客様があるので、早々に店へ行き、仕込をする。
だんだん胃の膨満感が増して、胃薬のお世話になる。
が、それをきっかけに増々気分が悪くなり、吐きそうで仕方がない。
開店してすぐにお客様がいらっしゃる。
その日はどういうわけだか、年配の、オヤジよりは一回り上の男性ばかりで、年金生活の話に花が咲き、第二の人生とゴルフの話題で持ち切りだった。
お客様のことを中傷誹謗するつもりは毛頭ないのだが、どのグループからも漂ってくる強烈な加齢臭が、我が身の不調に止めを刺した。
お客様には悟られないように、上からも下からも11PMのテーマ曲(ご存じない方のためにさわりだけ、♪シャバタ、バ、ピーッ、シャバタ・・・)で、すっかり衰弱してしまった。
オヤジだけならともかく、付き合いのいいかあちゃんも、店に充満する加齢臭にやられ、11PMのテーマ曲(ご存じない方のためにさわりだけ、♪シャバタ、バ、ピーッ、シャバタ・・・)をハミングする始末。
胃の中はすっからかんになった筈なのに、今にも「チェスト・バスター」が腹を喰い破って出てきそうなほど胃が張りつめ、脇腹や腰まで引きつる有様。
肩と首筋がガチガチに突っ張り、悪寒がする。
風邪か?

燃費よく盛上がるおじ様方が、順次お帰りになり、扉を全開にして加齢臭も消えて頂き、9時を過ぎたところでギブアップした。
足下はふらつき、お掃除ビールも無惨に垂れ流す。
バッカスの神の怒りを思い知る。
明日が定休日だということが唯一の救い。
店を閉め、まだ開いている薬屋で温湿布とドリンク剤を買い、よろよろ家路を辿る。
帰った途端、夫婦揃ってダウン。
普段滅多に熱のでないオヤジが37.6度あり、肩と腰に湿布を貼り、ユンケルを飲んだ。
泥のように眠りにつく。

翌日もひたすら眠る。
なんとか床を出たのが3時頃、ばあさんの病院には弟に車を出してもらった。
熱は下がった。
しかしまだ胃のあたりが重い。
再びグタグタ。
夜、何とか復活した。
かあちゃんもようやく起き上がれた。
何だったんだろう?
バッカスの怒りと加齢臭は関係があるのだろうか。

反省。
謙虚な蟒蛇になります。
反省。
出来るだけ悪魔になりません。
反省。
加齢臭には気をつけます。
反省。

本日は通常通り営業致します。
皆様お手柔らかにお願い申し上げます。


14:23:36 | mogmas | | TrackBacks