August 17, 2006

グエムル/漢江の怪物

  
漢江はソウルの中心を南北に分けて流れる、雄大な川である。
広い河原でバーベキューをしたり、釣りをしたり、思い思いに人々がくつろぐ場でもある。
その河原で売店を営むパクー家の長男カンドゥは、妻に逃げられ、なにをやってもダメダメの36歳。
中学1年生の一人娘ヒョンソが、まっとうに育ってくれることだけを願う彼の目の前で、突然川を破って現れた体長20メートルの怪物=グエムルにヒョンソがさらわれてしまう。
グエムルは逃げまどう人々を蹴散らし、食い殺し、河原をパニックに陥れて何処へか消え去る。
すぐさま在韓米軍と韓国軍が出動し、漢江一帯には戒厳令がしかれ、怪物が未知の病原体のホストであるかもしれないということで、パクー家の全員と河原にいた人々は病院へ隔離されてしまう。
そんな中、愛娘の死を受け入れられないカンドゥの携帯電話に、弱々しい声のヒョンソから電話がかかってくる。
娘が生きている、このわずかな希望にパクー家の人々は一致団結、監視の目を逃れヒョンソ救出へと向かうのであった・・・。

前作「殺人の追憶」という問題作をヒットさせたボン・ジュノ監督の演出はスピーディーで歯切れが良い。
ときにユーモアたっぷりに人物描写をしていくのと対極に、怪物=グエムルの不気味さは際立ち、自分を誕生させた人間への憎しみで凶暴な殺戮を繰り返すという怪物モノのセオリーが生きてくる。
怪物・クリーチャー好きにはうれしいことに、暗闇で見えたか見えないかというもったいぶった演出ではなく、物語の初っぱなから白昼堂々全身を晒し、暴れまくるのだからたまらない。
TV・CMでも流れている、グエムルの尻尾に巻かれてさらわれるヒョンソのシーンも見事で、特撮は将軍様の「ブルカザリ」とは比較にならない出来映えだ。
さんざん焦らして“コイツかよっ ! ”と一気にショボくなる、安手のハリウッド製怪物モノを見飽きた人にも-造型の好き嫌いはあるでしょうが-新鮮で、あとのドラマに引きつける演出はやられたね。
また、「わたし、怪物モノなんて」とためらう韓流ファンも納得の韓国ドラマになっており、名優ソン・ガンホやピョン・ヒボンの演技はさすがです。

だがこれはあきらかに怪獣映画ではなく、怪物映画なのだ。
日本製怪獣映画の不幸は、怪獣の巨大さとエスカレートする光線技の多様で収拾がつかなくなって、子供だましに成り下がってしまったことだ。
リアルサイズの怪物モノには、まだ無数の可能性があることをこの映画は教える。
そして、怪物誕生の根は、38度線や在韓米軍という不自然な現実にあることも、チクリと告発することを忘れていないのである。

もしも、荒川や隅田川からこんな怪物が現れたらと想像して見ると、より楽しめるのではないでしょうかスミダ。

10:58:00 | mogmas | | TrackBacks