August 19, 2006

なにげくんとヒップホップくん

  
久しぶりに「最後の砦」の戸を開け、カウンターの先客の顔ぶれを見て、一瞬帰ろうかと思ったが、座って飲む冷たい生ビールの誘惑に勝てずにそのままカウンターに止った。
カウンターには3人の若者、もうすでにいい気持ちちゃんの様子で、クダクダとバカっ話を続けている。
1人がおなじみのセリフ“なにげに”をほざく。
いったいその話のどこが面白いのかわからないが、しきりに出てくるセリフは“なにげに”なのだ。
「オレがなにげに言ったらさぁ、なにげに笑いやがんの。なにげにバカじゃんアイツ・・・」
てな具合。
5分もしないうちにイライラがつのり、彼らと巡り会わせた不運に自らを呪うのであった。
しかし、彼らの飲む酒は単に勢い付けのドリンクであって、ひとしきり盛上がればお開きになることがわかっていたので、テレビを見る振りをして完全黙殺した。
心の中では、彼らを3人1組で「なにげくん」と名付けている。
その後10分ほどの間に、「なにげくん」たちは“なにげに”を数十回も連発して店を出て行った。
彼らの中では「何気なく」という言葉と、「なにげに」は明らかに別の意味で、ごく普通に慣用語として定着しているので、なんらおかしな言葉ではないのだ。
それに違和感を感じる者は、彼らとはお友達にはなれないのである。
絶対にお友達にもお知り合いにもなりたくないオヤジは、無言だがホッとした顔をチラッと見せた「最後の砦」のマスターとは同類かもしれないと思った。

朝仕込みにきて、店の前を掃除している時に、よく出会う若者が「ヒップホップくん」だ。
もうかれこれ2年ほど、店の前で出会っている。
彼がどこかからかやって来て、違法駐輪している場所もすでに知っている。
自転車を止め、色鮮やかなナイキのシューズで軽やかに彼は歩き出し、店の前を通過して駅へ向かうようだ。
1年中ダボッとした短パンで、耳にはヘッドホン、どんな曲を聴いているかはわからないが、歩く様子から想像すると「ヨッ、ヨッ、ヨッ、チェキラッ・・・」てな感じで、勝手に「ヒップホップくん」と呼ばせてもらっている。
いつも同じペースで脇目も振らず、歩きタバコもせず、9時から10時ぐらいの時間に通過するのだ。
夜看板を仕舞うとき、帰って来る「ヒップホップくん」と出くわしたこともある。
朝とまったく同じ、リズミカルな帰宅であった。
朝は割と遅めの出勤、夜は10時過ぎの帰宅。
何をしている若者なのだろうか、酒は飲まないのだろうか、一人暮らしなのだろうかと、いろいろ想像して見る。
ある朝、路地の真ん中でチリトリにゴミを掃き入れているとき、背後から近づいてくる「ヒップホップくん」に気づかず、彼を足止めしてしまった。
「おっと、ごめんなさい」と軽く頭を下げると、彼は目礼のように頷いた。
その後、彼と出くわすとなんとなく目礼のように視線を交わす。
そんな「ヒップホップくん」をここ数週間見かけない。
引っ越してしまったのだろうか ?
なんとなく気になるのである。
まさか「演歌くん」に転向することはないだろうから、どこかでマイペースでやっているのだろう。

15:47:11 | mogmas | | TrackBacks