August 20, 2006

夜鳴くセミは悲しい

  
午前零時を回って家の近所の桜並木に差し掛かると、蒸し暑い空気の中、蝉時雨がものすごい勢いで降り注いだ。
ミンミン、ジージー、狂ったようにひたすら鳴いている。
かあちゃんが立ち止まった目の前の幹で、誰憚ることなく盛大に鳴いている。
ひょいと手を伸ばせば簡単に捕獲できるところで、あまりに無防備に鳴いているのである。

オヤジかかつて紅顔の美少年だった頃、昆虫採集に明け暮れて、捕虫網と注射針を一夏の間離さなかったことを、このセミどもは知る由もない。
捕獲した数々の昆虫は、羽の美しいチョウやガは展翅版に張付け、甲虫は躯の真ん中にブスッと針を刺し、標本に仕上げて学校の宿題として提出したものだ。
セミなどは、土の中からやっと出てきて木に止ったところを仕留めて、その短い生を全うさせることも許さないほど乱獲した。
長野の伯母からは、たった7日間しか生きられないものを、なんでそんなに殺生するのかと叱られたりしたが、あらゆる種類のセミをコレクションしたかったのだ。

セミの姿をしげしげと見ると、文明が高度に発達しすぎて、あるマッドサイエンティストが核実験で故郷の星を消滅させ、宇宙の漂流者となった「バルタン星人」をいつも思い浮かべる。
なんと秀抜なデザインなんだ。
幼虫から蛹を経て、成虫に至る3段変化の見事なこと。
わずか1週間しか生きられないなんて、神はなんて惨く気まぐれなんだろう。

春に咲き乱れる桜も悲しいが、盛夏の蝉時雨もどこか物悲しい。
まして真夜中のセミの声は、断末魔のようで切ない。
あまりに切ないので、しかたなく今夜も「最後の砦」の戸を開けてしまったのである。

10:39:00 | mogmas | | TrackBacks