July 17, 2008

運動靴と演歌おじさん

  
スポーツ用具店で、ちゃんとしたランニングシューズを買った。
運動靴的なスニーカーはしょっちゅう履いてはいたけれど、ちゃんと運動をするためのシューズを買うのは20数年ぶりだ。

しかしちゃんとした運動靴には、松・竹・梅、または上・中・下のような価格差があるわけで、20数年ぶりのオヤジが履くには中の下あたりでいいだろうと、店員さんに選んでもらった。
しばらくトレーニングしてみて、身体が追いついてきたら上や松のシューズにすればいいことだ。
靴ひもをキュッと締めると、軽くて歩きやすくてなかなかいい。
これに5本指の靴下と、古傷が角質化して痛み、時々ナイフで削らなければならない左の薬指に、ジェルのパッドのついたサポーターを着けて準備完了。

前の晩は眠くてたまらず、お子ちゃまタイムの8時過ぎに寝てしまったおかげで、翌朝5時半に起きてしまった。
これは新しい運動靴を試すには絶好の機会だと思い、生姜とレモンと蜂蜜入りの紅茶を飲んで、6時過ぎには荒川の土手の上に立っていた。

この1ヶ月で10キロ減量して、63キロになった身体年齢46才は、20数年ぶりに河原を歩き出した。
実業団で走っていた「auちゃんパパ」=「マラソンマン」のアドバイスに従った歩き方で、堀切橋から西新井橋を目指した。
まずは歩きだ。
走るのはもう少し慣れてから。

医者から「あなたこのままでは死にますよ」と言われたからこんなことをしているわけではない。
すべては、再び旨い酒を飲みたい一念からだ。
医者にも薬にも頼りたくないし、人様にも迷惑をかけたくないから、今を我慢している。
30数年間、数千万円もお酒に投資して出来上がった身体だ。
医者から「やめろっ」と言われても、そんなこたぁフンだ。
薬はやめても、酒は絶対やめない。
30数年飲み続けてきたのだから、わずか半年や1年ぐらい休憩したって、バッカスの神もお許しになるのだ。
酒が旨いと感じるベストな体調に戻したあかつきには、旨い酒を美学を持って飲むのだ。
それを目標に、とりあえず今は歩く。

堀切橋から千住新橋の中間ぐらいで、すでに汗びっしょりだが気分はいい。
回りの景色を見ながら、脇目をふりふり歩いていると、前方から白いハンチングにジーンズ姿の白髪のおじさんが、なにやら演歌調の歌を口ずさみながらやってくる。
片手に歌詞カードを持ち、それを見ながら歩調も緩めず、いい調子で喉を震わせて歩いている。
傍らをウォーキングの人や、ジョギング、自転車の人たちが追い抜くのもなんのその、「演歌おじさん」はマイペースで演歌をうなりながら、悠揚迫らずオヤジとすれ違った。

なるほど、早朝の河原にはいろんな人たちがいるものだ。
千住新橋の下を通過して、西新井橋の少し先で折り返した。
ここまででおよそ3キロぐらいはあるだろう。
往復すれば6キロ、ただ歩くだけでもけっこうな運動だ。
このコースを以前は走っていたと思うと、歳月と体力の衰えを実感する。
拭いても拭いても、汗が流れ落ちる。
お好み焼に生ビール、お好み焼に生ビール、お好み焼に生ビール、と思い描き、鼻っ面にニンジンをぶら下げられた馬のように黙々と歩き、喘ぐ。
だが、帰りはもう少しスピードアップした。

堀切橋の手前500メーターほどのところで、再び「演歌おじさん」とすれ違った。
「演歌おじさん」もどこかで折り返してきたのだろうが、さっきとまったくテンポは変わらず、いい調子で「女の人生」だか「男の花道」だかを歌っている。
これはこれでいい運動だ。
へんに運動然としていないところが、とても好感触だ。
しかしおじさんの足には、ちゃんと運動靴が履かれていた。
やはり足回りはしっかりしないとね。

そのうち朝の挨拶でも交わすような常連になったら、誰の歌を歌っているのか探りを入れてみよう。
「演歌おじさん」が遠ざかると、ラストスパートに200メーターぐらい走った。
以外と走れることがわかってホッとした。
毎日はできないが、なるたけ早起きして土手に来てみよう。
「auちゃんパパ」=「マラソンマン」と約束した「ホノルルマラソン」に出場するため、旨い酒を心おきなく飲むため、やがてこの6キロを走れるようになろう。




11:21:21 | mogmas | | TrackBacks