July 11, 2007
ウルトラなバッチギ !
またまたウルトラ・ネタで恐縮です。
41年前の7月10日、日曜日の夜7時、「武田、武田、武田〜」のCMに続いて、ついに僕らのウルトラマンがその勇姿を現した。
よい子はみんなテレビにかぶりつき、テレビの角が丸くなるほどベタベタに舐めまわし、って、んなわけないか・・・。
しかし、鼻垂らしの継ぎ当て坊主も、坊ちゃん刈りでタイツの坊やも、ガキ大将もいじめられっ子も、どいつもこいつもみんな、クリスチャンでもないのに胸の前で十字をつくり「シュワッチ ! 」と叫んで飛び回っていた。
そんな幸せな夏はあっという間に終わり、純真無垢で紅顔の美少年で非の打ち所のないわがままで寝小便垂れのオヤジ少年は、小学校3年生の2学期に突如、千葉の上総湊にある区の養護施設に送致されてしまったのである。
同じクラスからは、典型的な「ジャイアン」タイプの「ヒトリモン」少年と工務店の一人息子の3人。
親からすれば、それぞれに困った手を焼く子供だったのだろうが、蒸気機関車が日に何本か走る程度の田舎の海っぺりにある養護学園に、2ヶ月余りも家から離れて生活することは、子供にとってはかなり過酷だった。
ただひとつの救いといえば、寝起きする寮の娯楽室に1台のテレビがあったことだ。
これで僕らのヒーロー・ウルトラマンの活躍が見られる!
でも、テレビの前の特等席は上級生が陣取り、寝小便垂れのオヤジ少年は、みんなの肩越しにウルトラマンの勇姿を見るのが精一杯だった。
そんなオヤジ少年の慰めは、小学校4年のお兄さん「金山くん」が描くウルトラマンや怪獣たちの絵だった。
「金山くん」はとても絵が上手で、今見たばかりのシーンを忠実にカッコよく描いてくれたり、リクエストに応じて、架空の戦いも描いてくれた。
放送終了後のヒーローは断然「金山くん」で、その絵のうまさは上級生たちも一目置いていた。
彼は普段からおとなしく目立たない存在だったが、とても説得力のある話し方をすると、子供心にも感じていた。
今考えると、「金山くん」は在日朝鮮人だったと思う。
「金山くん」にはいろいろな絵を描いてもらった。
ウルトラマン以外にも、鉄人やアトム、オバQなどなど、鉛筆で描いてもらった絵に、色鉛筆で塗る。
そしてそれが宝物になった。
ある日、お気に入りの1枚を寝そべって眺めていると、上から覗き込んだ6年生のいじめっ子が、
「おっ、カッコイイじゃんか。それ、おれによこせ」
言うなり、サッと引ったくられた。
そいつは下級生を横一列に並ばせ、なんの理由もなしに端からパン、パン、パンとピンタを食らわすような理不尽なヤツだった。
みんなそいつが大嫌いだったが、体も大きく、下手に楯ついたらあとで何倍にもなってかえってくるので、口をつぐんで我慢していた。
だが、その日の寝小便垂れのオヤジ少年は我慢しなかった。
「金山くん」が描いてくれたお気に入りの1枚には、「バルタン星人」と「エリマキ怪獣ジラース」がタッグを組んでウルトラマンと戦っている絵が描かれていたのだ。
そんな貴重な宝物を、違いのわからぬスットコドッコイに渡してなるものか。
「かえせーっ !! 」とかなんとか叫び声を上げて、頭からそいつに突っ込んでいった。
寝小便垂れのオヤジ少年の放った渾身の「バッチギ」は、しかしあっさり受け止められ、あっけなく引っくり返され、バシバシ頭や横っ面をはり倒され、奪い返そうと握った絵は無惨にも裂けてしまった。
寮母さんに現場を見つかってはまずいと、そいつはさっさといなくなり、裂けた絵を握りしめてヨヨと泣く寝小便垂れのオヤジ少年は取り残された。
涙と鼻水が大量に口の中へ入り、窒息しそうなほどしゃくり上げているその肩に、そっと手が置かれた。
「金山くん」だった。
彼は優しく微笑み、また描いてあげると慰めてくれた。
こうして、オヤジ初の「バッチギ」は、ウルトラマンとともに終わった。
なぜオヤジがウルトラの使徒となったか、これでおわかりいただけたと思う。
それにしても、あの時「金山くん」が描いてくれた絵は、どこへいってしまったんだろう ?
荒川の土手の側にあった「金山くん」の家は、ずいぶん前にマンションになってしまい、彼の消息は杳として知れない。
あの優しい「金山くん」はどこにいるのだろう ?
まだ絵を描いているのだろうか ?
こんな切なくも激しい葛藤があったことを、健康優良児で学園生活をエンジョイしていた「ヒトリモン」少年は知らないという。
忍者砦も脱走未遂も初耳だという。
人生色々、子供の世界も色々だったんですなぁ。
おっと、3分以上たってしまった。
これにて御免。
「シュワッチ !! 」
Comments
No comments yet