May 16, 2008

ミスト

  
その本の初版は昭和57年10月20日になっていた。

ハヤカワ文庫・モダン・ホラー書下し傑作集 1 「闇の展覧会 Dark Forces 」。

その中の一編、目次の一番最後にあった中編小説が「スティーヴン・キング」の「霧」だった。
夢中になって読んだ。
それが「スティーヴン・キング」との出会いだった。
いまから25年前のことだ。

霧の中から蠢いて伸びてくる触手。
外界を濃い霧に閉ざされたスーパーマーケットの中に閉じ込められた人々の恐怖と焦燥、疑心暗鬼と絶望、ほんの微かな希望をたよりに狂った世界から脱出しようとする一握りの人々。
軍の関与していた「アロー・ヘッド計画」とはなにか ?
まったく正体不明の生き物。
地獄の使いか、神の裁きか、いずれにしても人の命など紙くずほどの価値もない。
だが、「スティーヴン・キング」の原作ではまだかろうじて救いがあった。
それは彼もまだ若かったということなのか ?

映画「ミスト」はかなり忠実に原作小説の世界を描いている。
閉鎖状況でしだいに狂気が支配していくさまも、生き物のような濃密な霧も、一番肝心な“触手”も、25年間頭の中にあったイメージを裏切らない出来映えだった。
現在のCG技術があったからこそだと思うが、B級ホラーでさんざん使い古された感のある“触手”も、安手のウネウネ下手物ではない。
その点、日本のオモチャ売場でウルトラ怪獣などのフィギュアに触発されて勢いだけで作った産業廃棄物「クローバーフィールド」とはまったく違った、上質のホラーである。

冒頭、主人公のアトリエにあった「THE THING」のポスターが象徴的に映されるが、「ジョン・カーペンター」監督は「遊星からの物体X」の前に、「ザ・フォッグ」というこれまたさらに濃い霧の中から現れる恐怖の映画を作っている。
まあ、「フランク・ダラボン」監督の遊び心だろうが、そういうことは大好きなので、初っぱなから映画にのめり込めたのだ。

そして、宣伝文句にうたう「映画史上かつてない、震撼のラスト15分」を迎えるわけだが、「映画史上かつてない」は大袈裟でも、この原作からの変更点は「スティーヴン・キング」も納得だろうと思った。
もし「希望も救いもない」と考えたなら、それは「スティーヴン・キング」の世界を理解できていないということじゃなかろうか。

ただ惜しむらくは、エンドタイトルの途中から左右に流れる戦車のキャタピラやヘリの爆音が、この狂った世界の生き物は通常兵器で制圧できる怪物だということを表してしまっているのが物足りない。
せめて、地響きをたててのし歩く巨大な怪物にミサイルの一発でも当ててくれればよかったのにと、B級なウルトラオヤジは思うのであった。

あらためて原作小説を読み返してみたくなってしまった。





Posted by mogmas at 13:22:03 | from category: 映画の引出し | TrackBacks
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