November 27, 2005

映画禁止令


  カウンターに若いカップルが座り、昼間見た映画の話なんぞをしている。
楽しそうだ。
向かいでせっせとお好み焼きを焼くオヤジは、興味のある会話だけはなぜか耳に入る。
カップルはホラー映画の話で盛り上がっている。
“王様の耳はロバの耳”・・・。

男性「『リング』こわかったよねぇ」
女性「貞子が出て来るところが超怖い」
オヤジ?貞子が出てきたら思わず笑っちゃいました」?

男性「『呪怨』も超怖いよねえ」
女性「アメリカ版も超怖かったァ」
オヤジ?白塗りの少年が出てきたとき、思わずビールを噴いちゃいました?

その後もカップルは“超、超”を連発して、怖い映画の話でキャッ、キャッと盛り上がっておりました。

こういうたわいもない話には、口を挟んだりしません。
でも、チラッとかあちゃんの様子を伺うと、“ダメ、ダメ”というように首を横に振っています。
オヤジがちょっとでも茶々を入れようものなら、たちまちイエローカードが出されてしまうでしょう。
いいなぁ、若い人って、ああいうので怖がれるんだから。
アメリカ人のレベルって低いよなァ。
「サム・ライミ」も焼きが回っちゃったのかねぇ。
と、心の中で考えながら、手は忙しくコテを操るのであります。

過去に、お客様の映画の話に割り込んで、彼氏をケチョンケチョンに打ちのめしてしまったことがあって、かあちゃんにこっぴどく怒られたのであります。
それ以来、気心の知れない人の映画の話に乱入するのは当店では御法度なのです。
もちろん、聞かれれば答えますが、けっして突っ込んでヒートアップしてはいけないのです。
うっかり話のツボにハマったら、朝まででも弁舌を振るってしまうので、危険なことこの上ないのです。
そういうどうでもいい話に付き合えるのは、やはり“悪魔のあっくん”ぐらいしかいないのです。

でも以前明け方までやっている飲み屋で、“悪魔のあっくん”と映画談義をしていたら、隣りの席のお客さんが割って入ってきたことがありました。
彼は、映画の公開年から、役者の詳細な履歴まで正確に把握していて、見過ごしてしまうような細かなことまで記憶しており、さすがの“蟒蛇コンビ”も脱帽してしまいました。
世の中、上には上があるものです。
飲み屋からの帰り道、シュンとへこたれたオヤジ2人は、ねぐらまでトボトボと歩いたのでした。
あとで飲み屋のママさんに聞いたら、彼はある焼き鳥屋の厨房に入っている人だとか。
あの豊富な映画の知識では、きっと営業中に聞くお客様の話に舌打ちの連続だろうと思います。
そんな辛い毎日に、生半可な映画通の私たちと遭遇したため、格好の餌食と襲いかかったのかもしれません。
気持ちがわかるだけに、なんともはぁ、師匠と呼ばせてもらいたいですな。

カウンターのカップルは、まだ盛り上がっています。
男性「トム・クルーズの吸血鬼の映画、何だっけ、ヴァン・ヘルシ・・・、えーと」
女性「・・・?」
オヤジ?ああ、じれったい。「インタビュー・ウイズ・ヴァンパイア?
かあちゃんがこっちを見て首を振ります。





Posted by mogmas at 10:03:00 | from category: 映画の引出し | TrackBacks
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