January 13, 2006

健さん、あなたもですか?!

本日1月13日の金曜日。
アメリカじゃぁ「ジェイソン」が殺しにくる日でしょうが、わが国では、ただ1人の年寄りを殺すために、大勢が徒党を組んで押し掛けた日であります。
すなわち、元禄15年(1702)旧暦12月14日、月齢13.11満月、47人の刺客が本所松坂町の吉良上野介邸に討ち入り、その首をとった 「赤穂事件」の起きた日であります。

市川崑監督の映画「四十七人の刺客」は、往時のオールスターキャストの「忠臣蔵」とは趣きが違う。
池宮彰一郎の原作は未読だが、「敵を討つ」という視点ではなく、浅野内匠頭の刃傷の原因を幕府=柳沢吉保&上杉家江戸家老色部又四郎が隠蔽し、己の安泰を計るという陰謀に、大石内蔵助率いる赤穂勢が立ち向かい、ご政道を正す、という話になっている。
ために、今までの歌舞伎、演劇、映画、ドラマの名場面、お涙頂戴シーンは極力描かれない。
だから、「各々方、討ち入りでござる」とは言わず、高倉健さん扮する大石は、「今宵、吉良を殺す」と言うのだ。
さしずめリアル判「忠臣蔵」といったところだが、とっても残念なことが1つだけあった。

「ズラ」である。
とても強そうな健さんの襟足の毛が、「ズラ」から見苦しくはみ出しているのだ。
思わず「健さんあなたもですか?」と画面に話しかけてしまった。
時代考証や所作もきちんとする市川崑演出なのに、「ズラ」からはみ出た毛は、お構いなしだ。
さすがの崑さんも健さんには言えないのか。
いや、他の役者の襟足も見苦しかった。
とすれば、もはや「ズラ」屋が悪いとしか言いようがない。
このCGなどの技術が進歩した世の中にあって、「ズラ」だけ技術革新がないのはどういう怠慢だ。
カツラ屋さんのコマーシャルを見るがよい。
増毛、植毛の技術のすばらしさは、ふさふさの髪をマルガリータにしてでもやってもらいたいと思わせるほどだ。
なぜそこまでしないのだ。
まあ、10年前の映画だから、そこまでは無理としても、せめて「ズラ」を被るときは、襟足をきれいに手入れしてほしい。

という訳で、半ば「ズラ」で腹を立てていたので、作品の評価は大好きな市川崑監督の映画でも高くない。
吉良上野介が白刃を構えて迫る大石内蔵助に「刃傷の訳を聞きたくないのか」と命乞いをするのに対し、内蔵助は「聞きとうない!」と一蹴する。
これは今までの「忠臣蔵」では有り得なかったことだ。
「殿のご無念を晴らす」という一念で1年9ヶ月もの日々に耐えてきたのだから、念願成就のその日に肝心の「刃傷」の秘密がわかるのなら、四十七士だけでなく、見ている観客も知りたい。
それが人情だろう。
しかし、その秘密は永遠にわからないのだ。
史実でもわからないから、ドラマが生まれたのだ。

いままで随分と「忠臣蔵」幻想を擦り込まれてきた身には、この映画は新鮮ではあった。
しかし、まだまだ多くの疑問があるので、このテーマは終われない。
来年の今月今夜、再来年の今月今夜も、きっと新たにこの件に関して発見があるであろう。
各々方ご油断めさるな。

 


15:52:35 | mogmas | | TrackBacks

ストローおじさん

ばあさんの顎と唇は、抜糸後は順調に回復しているが、4本目の歯がグラついていたり、ピタッと唇が閉まらなかったりで、食べたり飲んだりするのが辛そうだ。
食べ物は、幅の狭い先の細いスプーンでおちょぼ口で少しずつ食べ、味噌汁や飲み物は、茶碗から飲むと唇の隙間からタラタラこぼれてしまうので、常にストローを使っている。
バリバリと音を立てて煎餅を食べたいだの、勢いよく蕎麦を啜りたいという欲が出てきたので、取りあえず食の方は安心だ。

貧乏性の昭和3年生まれは、もったいないが先に立ち、味噌汁やコーヒーを飲んだストローを何度も洗って使っている。
しかしさすがに何度も使えば、曲がりの蛇腹の部分の汚れが取れなくなるので、時々こっそり取り替えてやる。
今はストローなど安く、売るほどあるのだから、せめて味噌汁用とか、コーヒー用で使い分けてほしいと思うのだが、1度口に入れたものは愛着がわいてしまうのかもしれない。

そんなストローのことで、かつてモグランポでランチをやっていた頃、1週間に2度ほど来られたお客様を思い出した。
店での通称は「ストローおじさん」だ。
背は低く、黒ブチの眼鏡とネクタイは締めているが、見るからに垢染みた服装で、すり減った運動靴は明らかに大きすぎた。
いつも使い込んだ手提げの紙袋を抱えるように持っていて、足が悪いらしく、左足をやや引きずった歩き方をした。
その辺の噂によると、元銀行の支店長だったとかで、落ち着いた低音の声と、蘊蓄のある話し振りはなるほどと思わせるものがあった。
「ストローおじさん」は、ランチを食べるというよりは、酒を飲みにやって来た。
昼間から、日本酒、ワイン、ビールを頼み、ごく静かに煙草を吸うでもなく、背筋を正してゆっくり飲んでいった。
お金も持っているようだし、それだけならとてもいいお客様だったのだが、酒を飲む時には必ず上着の内ポケットから“マイ・ストロー”を取り出し、チュー、チュー吸うのである。
他にお客様がいない時ならまだいいが、カウンターに座っているだけで“何者?”という雰囲気を醸し出しているのに、やおらストローを取り出して酒を吸い込み始めると、それを目の当たりにした他のお客様の目は点になってしまうのだ。
まあ、それでも、色々なクセのある人がいて世の中成り立っているのだから、そこまでは大目に見よう。
しかし、残り少なくなった酒を“ズルズル、ズピッ、ズズッ、プハッ、ゲップ”とやられたら、他に食べている人の食欲は一気に減退してしまう。
ある日、勇気を出して聞いてみた。
「なぜストローで飲むんですか」と。
するとおじさん、来なすったなと余裕の笑みで、
「こうするとねぇ、味が繊細にわかるのですよ。それぞれの素材の味を舌の上で確かめられるんですね」
と宣った。
ふふん、しかし何度も使い回されたストローの蛇腹の部分は、すでに変色して、いかにも不潔だ。
とても親切なオヤジは、新しいストローを差し上げた。
するとおじさん、自分の愛用のストローと見比べ、小さく頷くと新しいストローを内ポケットに仕舞ってしまった。

そんなことが何度かあり、音を立てて酒を飲むのはやめてほしいとお願いした。
おじさんはちょっと考える振りをし、
「わかりました」と答えた。
だが、その後も効果音入りの酒飲みパフォーマンスは治まらず、あげくの果ては「おなら」まで平気でお漏らしになったのである。
他のお客様の迷惑になる行為を、これ以上容認する訳にはいかないので、まことに遺憾ではありますが、お立ち入り禁止とさせて頂いた。

しばらくの間、千住の町を昼間歩く寂しげな「ストローおじさん」の後ろ姿を目撃することはあったが、いつの間にかその姿を見かけなくなった。
どんな事情があって、どんな人生を送っているのか、いささか寂しい出来事でありました。
小さな子供が、ストローで“ズズズッ”と飲み物を吸い込むのを見るたび、一抹の寂寥感を覚えるのは私だけなのでありましょうか。

13:36:00 | mogmas | | TrackBacks

コウモリ男の夜

“悪魔のあっくん”やAさんから、とてもいいから見ろと、去年言われていたのだが、延び延びになって、ようやくこのあいだ見た。

「バットマン・ビギンズ」。
一言で言うと、ティム・バートン版の2作の方が好きです。
DVDで安かったので、前作のシリーズは全部そろえた。
シリーズ後半は敵のキャラが強すぎるし、バットマン役者も変わっているのでちょとヘナチョコだったが、それはそれで昔のテレビシリーズ乗りでいいかもしれない。

さて、新作のバットマンだが、普通の?大富豪ブルース・ウエィンがいかにバットマンになったかという件が物語の核で、よりハードで骨太な展開になる・・・筈なんだろうけど・・・。
かったるいよね。
いいってば、そんなに理由づけなくても。
どうせゴッサムシティから出ない、地域限定正義の味方なんだから。
だいたい「影の同盟」ってなんじゃらほい。
渡辺謙、かっこ悪すぎ。
大々的にマスコミに取り上げられちゃったから、本人もバツが悪かったんじゃないかな。
リーアム・兄さん、師匠の役で出過ぎ。
せっかくゲーリー・オールドマンやルトガー・ハウアーのような悪が出来過ぎちゃう人たちがいるのに、もっと全面に出してくれた方がうれしいのに、忍者はないでしょう。
まったく、ハリウッドったら。
世界を裏で操っているような組織が、ブルースの両親殺しを誘発する原因を作ったという設定は、いささかこじつけ気味だし、それがあっさり片付けられてしまうんだから、小さなサークル活動のような悪の軍団だ。

コスチュームや武器などの設定はわりと好きだ。
アルフレッドのマイケル・ケインもいい。
ゲイリー・オールドマンもたまにはいい役もいいか。
次回作が作られるのなら、このキャスティングはOKだ。
ただ、最後にジョーカーの登場を匂わせて、ティム・バートン版へ繋がるようなシーンを作ったのはどういう訳だ。
きっぱりと別物で、前作を引きずらないで作ってくれれば良かったのに。

次回作を作るのなら、新シリーズ化を狙わないで、原作のバットマン最後の戦い、「スーパーマン対バットマン」か「バットマン対プレデター」の対決路線でいってほしい。
なぜ悪を憎むのかとか、なぜ戦うのかという問題はもういいでしょう。
ということで、この作品が我が家のバットマンDVDコレクションに加わることはなさそうた。
少なくとも、何度も見たい出来だとは思わない。
そういうことです。
あしからず。




09:36:00 | mogmas | | TrackBacks